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リン酸化酵素とナットウキナーゼ
薬学生物学の講義(H18年6/26)で、「キナーゼ(kinase)とは、一般に細胞内に存在し、ATPの端っこのリン酸基(gamma位といいます)を基質へ転移するリン酸化酵素」と説明しました。その講義終了後、理学部生より質問を受けました。「納豆キナーゼ」なるサプリメントを一家で利用しており、エコノミー症候群の予防など血液サラサラ効果がうたわれており、細胞内酵素でもリン酸化酵素でもないのではないか?とのことでした。納豆キナーゼを耳にするのは初めてで(生化学を専門としながら恥ずかしいのですが)、帰りがけに川端御池フ○スコにて納豆売り場に立ち寄ると、“お○め納豆”社製の納豆キナーゼ高生産菌使用なる製品に遭遇し、納豆キナーゼの実在を確認しました。帰宅後食べてみましたが、通常のものと比較して、なるほど一味違いがありそうです。web検索したところ、納豆キナーゼは納豆菌が生産する酵素で、(摂取後そのままの状態で腸管より一部が吸収され?)血液中で強力な血栓溶解活性を示すとのことが記載されています。すなわち、納豆キナーゼは納豆菌の菌体外酵素で、フィブリン等の血栓成分を加水分解するタンパク質分解酵素とも推定され、上記の説明とは異なります。一般に、加水分解酵素は化合物名+aseというように簡便的に表すことが可能です。タンパク質(protein)を加水分解する酵素をaseをつけてproteinaseと総称しますし、デオキシリボ核酸(DNA)を加水分解する酵素はaseをつけて(さらに、カブったAをとって)DNaseという具合です。納豆キナーゼは“納豆菌+ase”という命名で、納豆kinaseではなく、納豆菌ase (nattokinase)ではないかとも考えられますが、納豆菌aseですと、納豆菌を加水分解する酵素?と解釈することになり極めて不自然です。
 当教室の池田助手より、タンパク質分解酵素の中で、特に血栓溶解活性を有する“プラスミノーゲン(plasminogen)をプラスミン(plasmin)に活性化する酵素”にキナーゼを用いることを指摘されました。医療にも用いられているウロキナーゼ(urokinase: 尿中のプラスミノーゲン活性化酵素)やスタフィロキナーゼ(staphylokinase: ブドウ球菌由来のプラスミノーゲン活性化酵素)が知られています。プラスミノーゲンが限定分解されて生じるプラスミンは、我々の体内で血栓を溶解する酵素として働きます。従って、納豆由来のプラスミノーゲン活性化酵素なので、納豆キナーゼと命名されたと考えるのが妥当だと言えます。ただし、納豆キナーゼによるプラスミノーゲンの限定分解によるプラスミン生成の活性については、確認出来ませんでした。

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