薬物代謝酵素/排出トランスポーターの協奏効果
〜発現および機能の変動要因の薬物速度論的解析〜
【研究の背景】
チトクロム
P450(CYP)
は薬物の代謝に関与する代表的な酵素ですが、なかでも
CYP3A4
は現在臨床で使用されている医薬品の
50
%以上の代謝に関与している分子種であり、薬物治療の最適化を考える上で最も重要な代謝酵素であることが知られています。
CYP3A4
は薬物代謝の中心臓器である肝臓に最も多く存在していますが、小腸にも豊富に発現していることが知られており、特に経口投与した薬物の初回通過における代謝に重要な役割を果たしています。
また、小腸には
P-
糖タンパク質
(P-gp)
と呼ばれる薬物排出トランスポーターも同時に発現していることが知られています。
この
P-gp
は吸収途中の薬物を細胞外に汲み出す働きがあるため吸収の際のバリアーとして機能していますが、不思議なことに
CYP3A4
の基質になる薬物の多くがこの
P-gp
の基質にもなることが分かっています。
したがって、こうした薬物が小腸を通過する際には代謝と排出を同時に受けてしまうため、バイオアベイラビリティーが大きく低下してしまうことになります。
また、
CYP3A4
と
P-gp
は肝臓にも同様に発現しており、両者の基質となる薬物は肝臓でも代謝や胆汁への排泄を受けることになります。
このように
CYP3A4
と
P-gp
には、臓器分布性(小腸と肝臓に存在)と基質特異性が非常に類似しており協奏的に働きますが、これらに加えて様々な要因によってその発現や機能が大きく変動するという共通の特徴を持っています。例えば、感染・炎症などの病態で低下することや特定の薬物によって誘導されてくることなどが知られています。特に誘導現象に関しては、最近、核内レセプターを介して同じ薬物によって
CYP3A4
と
P-gp
が同時に誘導されてくるという興味深い報告もされています。以上のように、
CYP3A4
や
P-gp
の発現や機能に影響を与える要因については幅広い情報を蓄積することが治療の最適化を実現するために必要不可欠となります。
【これまでの成果】
これまで私達は、こうした変動要因の一つとなりうる可能性のあるものとしてインターフェロン
(IFN)
を取り上げ、薬物速度論的な検討を行ってきました。
IFN
は炎症性疾患・ウィルス感染症等の病態時に内因性に産生されるサイトカインであり、また、臨床においても抗ウィルス剤・抗癌剤として汎用されています。まず各種培養細胞を用いた
in vitro
系において、
IFN-
b
(I
型
IFN)
および
IFN-
g
(II
型
IFN)
の影響を調べました。
その結果、ラット肝初代培養細胞において
IFN-
g
が
P-gp
による薬物排出能を大きく低下する現象を見いだしました
(1,2)
。さらに同様の
IFN-
g
の効果はマウスにおいても見られることを明らかにし、
in vivo
でも
P-gp
に対する影響を考慮する必要があることが示されました
(3)
。今後は、各種
IFN
の作用機構等に関する検討を進めると共に、
in vivo
および
in vitro
の実験系をうまく併用してさらに種々の変動要因に関しても明らかにしていきたいと考えています。
【参考文献】
-
Effect of Interferons on P-Glycoprotein-Mediated Rhodamine-123 Efflux in Cultured Rat Hepatocytes.
Y. Akazawa, H. Kawaguchi, M. Funahashi, Y. Watanabe, K. Yamaoka, M. Hashida and Y. Takakura
J. Pharm. Sci., 91(10):2110-5 (2002)
Abstract(PubMed)
-
Interferon Modulation of Permeability of Human Intestinal Caco-2 cell Monolayers.
H. Kawaguchi, Y. Akazawa, Y. Watanabe and Y. Takakura
(submitted)
-
Effect of Interferon-g on the Pharmacokinetics of Digoxin after Intravenous Injection in Mice.
H. Kawaguchi, Y. Matsui, Y. Watanabe and Y. Takakura
(manuscript in preparation)
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