薬物(くすり)には様々な種類があります。ビタミン剤や風邪薬のように一般的な処方薬から,お医者さんにかからなければ出してもらえない強力な薬や注射剤,そして,恐ろしい覚醒剤や麻薬も「くすり」に含まれます。「くすり」とは,人間の体に作用する化学物質ぜんぶを指していることばです。そして,人間の体に効いている「くすり」は,必ず人間の体をつくっている「何か」に作用しているわけです。
さて,くすりの作用点は何者でしょうか? それは多くの場合,タンパク質です。
タンパク質は,体を構成する主要な成分ですが,遺伝子の設計図に従って体内で作られ,その種類は少なくとも数万種類はあると考えられています。人間の体は数兆個の細胞によって作られていて,そのすべての細胞には多くの種類のタンパク質が含まれています。くすりはそういったタンパク質にくっついて(結合して)その作用を発揮します。
細胞の表面は下の図のようになっていて,細胞の内側や細胞膜(脂質二重膜)には多くのタンパク質があります。これらはくすりから見ると次のように分けることができます。
- 受容体:もともと体の中にあるホルモンや神経伝達物質などが作用するタンパク質で,ほとんどは細胞の表面にある
- 酵素:化学変化の触媒となるタンパク質で,細胞の内部にあることが多い
- 膜輸送タンパク質:細胞膜の内外で物質の輸送・運搬をしているタンパク質なので,必ず膜にある。イオンチャネルもここに含まれる
- 核内受容体:細胞核にあって,遺伝子からタンパク質をつくるまでの段階の調節をしている
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さて,くすりの作用点は主として「受容体」「酵素」「膜輸送タンパク質」「核内受容体」であることを示しましたが,実際にそれらはどんな割合なのでしょうか。
今までに使われているくすりを分類した統計は何種類か公表されていますが,下の円グラフの左側にしめしたものはその一例で483種類のくすりを作用点で分類しています。これによると,受容体をターゲットにしている薬は全体の45%と最も多く,続いて酵素が約3割,また,作用点が不明なくすりがなんと2割もあることに驚かされます。ここで膜輸送タンパク質に作用する薬物は全体の5%と低い割合ですが,その中身を見てみると,作用が強力で切れが良く,実際によく使われているくすりが多いことが特徴です。
それでは,この割合は将来も変わらないのでしょうか?そこで考えるべきは,今のくすりの作り方です。20世紀の終わりにヒトゲノム計画によって人間の設計図が解読されて以来,くすりの開発は「ゲノム創薬」が中心となっています。ゲノム創薬とは,体の中にあるタンパク質の中からくすりの作用点になりそうなものを選んで,くすりを作る方法です。
では,ヒトゲノムの中にくすりの作用点となりうるタンパク質が何種類あるのか?この疑問に対しても数多くの推計が行われています。その一例を円グラフの右側に示しました。それによると,ヒトゲノムの中にくすりの作用点となりうるタンパク質は6650種類,その内訳は,受容体が3割,酵素が5割,膜輸送タンパク質は15%もあるようです。ということは,この膜輸送タンパク質をターゲットにしたくすりの開発(創薬)はずいぶん有望なように思えます。
でも本当にそうでしょうか?実はここには解決すべきいくつかの壁があるのです。その壁を壊したい....それがイオンチャネル(膜輸送タンパク質)を研究したいという動機です。(つづく)

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