研究科長・学部長からのメッセージ

- 『Learning』と『Study』の違い -

薬学研究科長・薬学部長  中山 和久

 高校生のみなさんに「薬学とは何でしょうか?」と尋ねると、案外すぐには答えが返ってきません。そしてしばらくすると十人十色の答えが返ってきます。実を言うと、私自身も高校生の時はおろか、京大薬学部に入学した当初も、「薬学とは?」の質問に対してはまったく答えられなかったと思います。

 薬学とは、『病気の治療や予防、健康の増進をもたらす「医薬品」の開発、製造、管理、適正使用などを目標とし、これに必要な基礎学問を体系化した総合科学』です。薬学部では、有機化学、天然物化学、物理化学、分析化学、生物化学、生理学、薬理学、薬剤学、薬物治療学などの幅広い学問領域について学ばなければなりません。みなさんは、「こんなにたくさん学ばなきゃならないの!」と驚かれるかもしれません。私自身の学生時代には、あまりにもたくさんのことを学ばなければならない薬学部のことを皮肉って『雑学部』と呼んでいたほどです。でも、他の理系学部にはない薬学部の最大の特徴は、このように幅広い学問領域の修得を基盤にして、特定の学問領域のエキスパート(専門家)になることができることです。

 京大薬学部では、独創的な創薬研究や医療薬科学研究を遂行しうる資質・能力を有する薬学研究者(4年制薬科学科と6年制薬学科)、高度な先端医療を担う先導的薬剤師となる人材(6年制薬学科)の育成を目指しています。このような観点から、1年次に幅広い教養を身につけたのちに、学年進行に伴って専門性を段階的に高めて学修する体系的なカリキュラムを組んであります。平成30年度からは、一般入試については4年制薬科学科と6年制薬学科を一括で選抜し、4年次進学時に本人の希望と成績により学科を振り分けます。ただし、学部を卒業しただけでは以下に述べるような資質は身につきません。両学科ともに、大学院進学を前提にして(薬科学科の場合には大学院修士課程(2年)+博士後期課程(3年)、薬学科の場合には博士課程(4年))、このような人材の育成を目指しています。平成30年度から4年制薬科学科と6年制薬学科の学科別で行う特色入試については、博士の学位取得を前提として、薬学研究者や先導的薬剤師を目指す人材を選抜します。

 数年前に、京大大学院薬学研究科の修了生が就職している会社(主に製薬会社)の上司に対してアンケートをして、京大生を採用する際に求める資質を9つの項目の中から順位をつけて選んでもらいました。そうしたら、圧倒的な1位(上司の90%以上が1位に選択)は『基本的な論理的思考力・問題解決能力』でした。

 京大では、『自由の学風』の伝統に基づき、『自学自習』を念頭に置いた教育と研究が行われてきました。みなさんには、『Learning(学習)』と『Study(勉強・研究)』の違いを理解してほしいです。みなさんが高校時代に行っているのは基本的に学習(まなぶ=まねる+ならう)であり、勉強(つとめる+つよめる)や研究(とぐ+きわめる)とは少し違います。つまり、与えられるものを受動的に修得するのが学習であるのに対して、勉強は『自学自習』とほぼ同義であり、能動的に求めて身につけることを意味します。さらに、学習や勉強は既知のものを身につけることですが、研究は『物事について深く考えたり調べたりして真理を明らかにすること』であり、未知のものを自ら探し求めて明らかにすることです。

 私自身は、薬学部に入学した当初は、何の目的もなく漫然と過ごすダメ学生だったと思います。でも、2年目になって出席した生物学の授業で、ある生物に関するビデオを見て「生きていることって本当に不思議だな!」と思い、生物に関することについては、授業だけでなく自らいろいろ調べて勉強するようになりました。「なぜだろう」や「不思議だな」という素朴な気持ちは科学の基本です。私はその後、大学院で生化学や分子生物学の研究の基礎を身につけ、これまで30年以上にわたって分子細胞生物学の分野で研究を続けています。研究を続けるにあたっては、薬学部生の時に身につけた幅広い基礎知識(雑学)は大いに役立っています。

 みなさんには、枠にとらわれることなくできるだけ幅広い視野で学び、豊かな論理的思考力を養い、それをもとにして専門領域を究め、未知の問題にチャレンジして新しいものを生み出す力(問題解決能力)を身につけて、将来の日本、そして世界を背負っていけるような人になってほしいです。京大薬学部、そして大学院薬学研究科には、それを実現できる十分な環境が整っています!