メッセージ ~その(3)~

博士在学者からのメッセージ

今野 翔

YouTubeでは「英語字幕版」も公開しています。

研究テーマ:「天然物生合成酵素に対するケミカルプローブの開発」

微生物が産生する天然有機化合物は、古くから重要な医薬資源として活用されてきた一方で、病原菌の原因となる病原因子にもなることから、薬学上重要な化合物群です。このような天然有機化合物の多くは、非リボソーム性ペプチド合成酵素(NRPS)やポリケチド合成酵素(PKS)と呼ばれる巨大なモジュール型酵素によって合成されます(図A)。そのため、微生物中に存在しているこれら酵素の動態、機能や相互作用を直接解析することができれば、微生物による天然物産生のプロセスをタンパク質レベルで理解することが可能となります。これにより、有用天然有機化合物を大量に生産する培養条件の確立や病原因子の産生を阻害する化合物の探索等が可能になります。しかし、これら酵素の特異的な検出·評価法が存在しないため、プロテオームレベルでの解析は容易ではありません。
私はNRPSに必ず存在するアデニレーション(A)ドメイン着目し、NRPSを選択的に検出可能なケミカルプローブの開発を行ってきました(図B)。Aドメインは、非常に厳密な基質特異性を有し、アミノ酸やアリール酸をペプチド性天然物に導入します。この厳密な基質特異性を利用することで、Aドメインを特異的に標識可能な有機小分子(プローブ)を創出することが可能となります。これまでに設計·合成したプローブを用いて、天然物産生微生物の細胞抽出液中に存在するNRPSを選択的かつ高感度に検出することに成功しました。
今後はこれらプローブを用いて、微生物が発現しているNRPSの網羅的解析、未知の生合成酵素の探索および病原因子の生成を阻害する化合物の探索に応用していきたいと考えています。

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図:A) 微生物によるペプチド性天然物の産生とNRPSの概略図。多くのNRPSでは一つの酵素に複数のAドメインが存在しています。 Aドメインによって選択されたアミノ酸はNRPS上に担持され、下流のアミノ酸と縮合します。この反応を繰り返すことによりペプチド性天然物が合成されます。B) Aドメインを標的としたケミカルプローブの構造とプローブを用いたNRPSの標識化。本プローブはR部のアミノ酸を置換することで、任意のAドメインを特異的に標識することができます。本研究で開発したプローブは複数の夾雑タンパク質存在下でも、Aドメインを指標にNRPSを選択的に検出可能です。

 

発表論文

Sho Konno, Fumihiro Ishikawa, Takehiro Suzuki, Naoshi Dohmae, Michael D. Burkart, Hideaki Kakeya. “Active site-directed proteomic probes for adenylation domains in nonribosomal peptide synthetases” Chemical Communications, 2015, 51, 2262-2265.

DOI: 10.1039/c4cc09412c