TOP>融合研究コース 平成17年度 研究報告
 

アストロサイト形態を指標とした
セリンプロテアーゼ受容体リガンド探索法の最適化

生体機能解析学分野 中尾 賢治

研 究 指 導 主 任 : 生体機能解析学分野 教授 金子 周司

研究指導協力者 : 薬品有機製造学分野 教授 藤井 信孝

研究内容

研究背景

ヒト脳において神経細胞の数倍もの数が存在するアストロサイトは、様々な刺激に応じて形態を変化させることで、神経ネットワークの構築、神経細胞のシグナル伝達制御、細胞外液の恒常性維持など、中枢神経系において幅広い機能を担っていると考えられている。事実、アストロサイトの活性化を制御する低分子リガンドは中枢変性疾患治療薬として製薬メーカーの手で臨床開発が進められている。一方、トロンビンに代表されるセリンプロテアーゼは、特異的受容体PAR(Proteinase-activated receptors)において細胞外アミノ末端側のオリゴペプチドを切断し、そのペプチドが自己受容体リガンドとして結合することでPARを活性化させるユニークな情報伝達様式を有している。当研究室においては、トロンビンが惹起するアストロサイトの形態変化における細胞内Ca2+動態の関与について研究を進めており、培養アストロサイトを用いた新しい機能評価系をこれまでに確立した(2006年神経科学学会等で発表予定)。

目的

本研究の目的は、第一にケミカルバイオロジー的手法、すなわち細胞形態を指標とするアッセイによって新規PARリガンドを探索するための方法論を確立することにある。ついで最適化された手法に基づき、ペプチド合成と生理活性評価に長年の経験を有する藤井教授からアドバイスを受けつつ、実際にペプチドライブラリからアストロサイトの形態変化に影響を与えるリガンドを探索する。

方法

トロンビンに対して高感受性に形態を変化させる培養アストロサイト1321N1細胞株を用い、諸種ペプチドを適用した場合の形態変化を経時的に追跡する。なお、データ解析には、ペプチド選択に有効なフィードバック情報を与えるコンピュータ学習アルゴリズムを応用したい。



1321N1 astrocytoma の thrombin による形態変化と細胞内Ca2+ 上昇



本研究により、アストロサイトーマにおけるthrombin 誘発細胞運動ダイナミズムに対し、細胞外からのCa2+ 流入や細胞内ストアからのCa2+ 放出を介したCa2+ 動員が同調関係にあることが示唆された。今後1321N1 細胞におけるPAR の関与を解明し、形態変化を指標とするペプチド由来アゴニスト・アンタゴニストの評価系を構築する計画である。

期待される成果

 アストロサイトの形態変化に関与するPARサブタイプは複数存在し、さらに下流の細胞内機構において、各種G蛋白質やカルシウム流入を担うTRPチャネルなど多様な分子が形態変化に関与していることが想定される。このように生体分子の複雑な相互作用によって細胞形態は調節されており、従来の限定的な酵素活性を指標としたin vitro スクリーニング手法は生理的に意義のあるリガンドの探索法として必要十分とは言えない。本研究のように、生細胞の形態変化を指標にする新たな手法を開発することで、生理活性を有する新規化合物を見いだすことが可能になると考えられ、特異的リガンドが見いだされていないPARサブタイプに対するリガンドの発見にも繋がる。さらに、発見されたリガンドはPARを介した増殖や形態変化、および環境適応の分子メカニズムを解明するためのツールとして利用できるとともに、臨床応用への可能性を示唆することができると考えられる。

 なお、本研究では培養細胞を用いる薬理評価のためのプロトコルを標準化し、研究の背景や最新の成果とともにWebCTシステムにアーカイブ化する。これらのコンテンツは、創薬研究者養成に有用な融合研究コースの教材を提供する。

 
 
 
 
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