■田中 智之助手 プロフィール
履歴
1970年 京都に生まれる 1989年 京都大学薬学部入学 1993年 京都大学薬学研究科修士課程入学(市川 厚教授・衛生化学講座) 1995年 京都大学薬学研究科博士後期課程進学(市川 厚教授・生体情報制御学分野) 1996年〜1997年 日本学術振興会特別研究員 1997年 京都大学薬学研究科博士後期課程中途退学 1997年〜 京都大学薬学研究科助手(生体情報制御学分野) 1999年 博士(薬学)の学位を取得(京都大学) 現在に至る
受賞
1997年 日本薬学会近畿支部会奨励賞(平成8年度) 2002年 第18回井上研究奨励賞 2003年 日本薬学会奨励賞(平成15年度)研究テーマ
京都大学大学院薬学研究科衛生化学教室に参加して以来、市 川 厚先生のもとヒスタミン生合成とその生理的意義の解明をテーマに研究を進めてきました。ヒスタミン研究では薬の開発という観点から受容体に着目する研究が盛んに行われていますが、合成酵素(ヒスチジン脱炭酸酵素: HDC)に着目することで別の角度からヒスタミンの新たな生理作用を捉えることが私の目標です。共同研究でHDC 欠損マウスを作製してからは薬理・生理の分野にも足を踏み入れ、従来の生化学に加えて芸域が広がったかもしれません。
HDC欠損マウスは組織マスト細胞の顆粒内の密度が顕著に低下するという面白い性質を示しており、現在はマスト細胞に重点をおいて研究を進めています。マスト細胞は一般的には即時型アレルギーや炎症との関わりで捉えられており、またそれは概ね正しいと思いますが、その機能の多彩さ(例えば、マスト細胞は白血球の中で最も多彩なサイトカイン、ケモカインを産生する能力を持つと考えられています。また寄生虫感染防御だけではなく、バクテリアを貪食する能力をも有しています)を知ると、『いやいや他にも免疫系をはじめ重要な役割があるはず・・』と考えてしまいます。論文とコメント
全業績は業績ページを参照いただけると幸いです。ここでは自己紹介を兼ねて、いくつかピックアップしてコメントを付けました。
初めて自分で書いた論文です。私が研究室に入った頃の市川研はヒスタミン生合成酵素であるヒスチジン脱炭酸酵素(HDC)の精製、cDNAクローニングが終わったところで、前駆体分子種の性質や、翻訳後プロセシングによるヒスタミン生合成の調節の有無等に研究の焦点が置かれていました。懸命に前駆体の精製を試みていたのですが、後述する通り、実は前駆体はプロテアソームの基質であり、今思えばなかなか困難なテーマに取り組んでいました。この頃はほとんどが不溶性画分に回収される前駆体酵素の性質をどう捉えようか試行錯誤していました。
特異抗体の作製に成功して、ようやくHDCの性質に迫るべく実験が軌道に乗り出した頃です。ラットマスト細胞株に発現するHDCの細胞内局在性はユニークなものなのですが、先にサイトゾルに存在する前駆体のプロテアソームによる分解の結果がまとめられそうになったため、順序が前後しています。抗体ができて目の前がぱっと開けたような感覚がしたことを覚えています。この論文に関しては、千葉大学薬学部・五十嵐一衛先生の電話でのアドバイスを受けてからどんどん実験が進んだことを覚えています。
HDCがマスト細胞株においてユニークな細胞内局在性を取ることを見出した論文です。具体的に言うと、マスト細胞の顆粒画分にもHDCが分布していることを示しています。すなわち、少なくともこの細胞株ではサイトゾルと顆粒という二つのコンパートメントにおいてヒスタミンは合成されると考えられます。現在もなおHDCの細胞内局在性の仕事は続けているのですが、どのような仕組みで局在性が決定されているのか、また細胞種によって局在性が変化する理由等、まだまだ判らないことが多いです。この論文はリバイス無しだったのですが、今、読み返すと荒削りな感(英文の出来を含めて)があります。当時は大学院生でよく判っていなかったのですが、実はかなり波長の合うEditorだったのかもしれません。
これも一連の仕事で、HDCがシグナル配列や膜貫通可能な疎水性領域を持たないにも関わらず、小胞体へと翻訳後ターゲッティングされることを示しています。プロセシングにより失われるC-端20-kDaの領域はこのターゲッティングを支配しています。HDCだけでなく何か別のタンパク質の助けがありそうなのですが 、メカニズムは今なお不明です。結合タンパクの解析が回答を与えてくれるだろうと考えています。
日本(東北大学医学部・渡邉先生、大津先生)、カナダ(Prof. A. Nagy)、ハンガリー(Prof. A. Falus)との共同研究で作製したHDC-KOマウスですが、最初の論文が出るまでは難産でした。国際的な共同研究ということで、英文メールの腕をあげさせてもらったような気がします。今でも覚えているのは、向こうでは年末年始の休みがないため、大晦日にかけて怒濤のメールがやってきて、市川教授が休暇中で連絡が取れないために「いや、結論はもう少し待ってくれ」、「いや待てない。投稿する」とか、論文の内容に関しても「ここは論理的ではない」、「それなら君がこの部分をどう直すかを送ってみてくれ」とか、いろいろやりとりがありました 。いざという時の追い込みの強さや、毎日密にやってくる通信等、非常に勉強になりました。その後、私は正月からインフルエンザに感染して40度の高熱で1週間寝込みました。
HDC-KO第二弾の論文です。KOマウスというのはヘテロな遺伝的背景を持っているので、しばしばバッククロスしてから実験に用いることになります。そこでその間、遺伝的背景が異なっていようが、明らかに出てくる表現型を狙おうということで胃酸分泌をターゲットにしました。個人的には動物を使った薬理実験を実地に体験できることに大きな魅力がありました。薬理実験では京都薬科大学・岡部 進先生に大いにご指導いただきました。おかげでその後、初代培養や簡単な手術等に壁を感じることなく取り組めるようになったことは大きな収穫でした。これまで山のような論文が発表されているヒスタミンと胃酸分泌というテーマは、論文を書く際には大変なプレッシャーでした。しかも、勢い従来の研究史をまとめざるを得ない部分もあるわけで、Reviewerからは厳しいチェックを受けました。良い勉強になりましたが、胃酸分泌業界で言えば新参者がKOマウスを携えて突然やってきたわけで、そう簡単には通さないぞという雰囲気を感じました。投稿から掲載にこぎつけるまで1年以上かかっています 。
IL-3依存性骨髄由来培養マスト細胞(BMMC)の調製が確立し、抗原抗体反応の実験をしていた時に、IgEで感作するだけでどうやらヒスタミンがたくさん作られているようだというところからスタートした研究です。実験を始めた頃はまだ抗原非存在下のIgEの機能に関する報告はほとんどなかったので、これは大ネタになるはずだとワクワクしていたことを覚えています。残念ながら、半年ほど先を越されてImmunityに2報、monomeric IgEの作用をBMMCで見ている論文が出てしまいました。マスト細胞にとってヒスタミンは主要なメディエーターでその作用もはっきりしていることから、後追いでも掲載して貰えたのかなと思っています。でも、Ca++ influxの重要性等、新たな視点を追加しています。慢性アレルギー状態では血中IgEは通常の100〜1000倍にも達するので、この発見は病態形成のメカニズムの一端を説明しているはずです。
ヒスタミン生合成を介して発現する生理作用の解析
田中 智之 (2003) 薬学雑誌 123(7), 547-559.日本薬学会奨励賞を頂いたことから、和文総説を書く機会を与えていただきました。短いものなので、ご関心をもたれた方にお読みいただけると幸いです。薬学雑誌のホームページはこちら。
その他
特に子供ができてからは趣味を持つほどの時間はなかなかできません。ちょこちょこできるという点で、家族の出来事を書いた新聞を Illustratorで作ったり、DVD-Video 編集に楽しみを見出しています。これらはMacをいじれて私が楽しいという点と、家族や親戚が喜ぶという点で非常に円満な趣味となっています。それでもあまりにMacにかじりついていると具合が悪いことも起きますが・・。