脊髄および脳内におけるATP受容体の痛みへの関与

 ATPは生体におけるエネルギー源として利用されるだけでなく、ATP受容体(P2プリン受容体)を介して、細胞間における情報伝達物質としての役割も果たしています。その生理的な役割には様々なものがありますが、特に痛みの発生および調節における役割が注目を集めています。これまでATPの痛みに関する研究は末梢レベルでのものが多かったのですが、私たちは脊髄レベル、さらには脳内におけるP2プリン受容体の痛みの役割を研究し、その役割は部位や受容体サブタイプにより異なったものであることをつきとめました。また最近、脊髄レベルでのATPによる痛みの発生が非常に長期間持続するものであることを発見し(少なくとも1週間以上)、そのような神経可塑的変化の要因にグリア細胞が関与しているのではないかと考えています。


P2X受容体の脳室内投与により、末梢・脊髄とは反対に鎮痛作用が惹起されることを発見。また、その作用には脳内ノルアドレナリン神経系の起始核である青斑核に存在するP2X3受容体が寄与していること、また当該部位でのグルタミン酸遊離促進が関与していることを見いだした。

 Eur. J. Pharmacol., 419, 25-31 (2001)
 Jpn. J. Pharmacol., 86, 423-428 (2001)
 Pain Res., 18, 115-120 (2003)
 J. Pharmacol. Sci., 94, 153-160 (2004)
 Mol. Pain,2, 19 (2006)

行動薬理学的および電気生理学的けんとうにより、脊髄内P2Y受容体は、脊髄内P2X受容体とは反対に、鎮痛作用を有することを発見。

 Neurosci. Lett., 320, 121-124 (2002)
 J. Pharmacol. Exp. Ther., 303, 66-73 (2002)

ATPの脊髄くも膜下腔内投与により少なくとも1週間以上続く長期持続性アロディニアが惹起されることを発見。また、その誘導および維持にはカプサイシン非感受性一次感覚神経上に存在するP2X2/3受容体が寄与すること、また、グリア細胞におけるERKのリン酸化が関与していることを見いだした。

 Neuroscience, 147, 445-455 (2007)
 Biol. Pharm. Bull., 31, 1164-1168 (2008)

Copyright (C) 2004 Takayuki Nakagawa, Ph.D., Kyoto University