ペルオキシソーム

ペルオキシソームへのタンパク質の局在化の構造生物学研究

ペルオキシソームは、単一の膜構造を有するオルガネラであり、過酸化物の生成分解、脂質成分の代謝に関わっています。 そして、ペルオキシソーム形成に異常をきたすと、いくつかの重篤な疾病を引き起こすことが知られています。

ペルオキシソームへのタンパク質の輸送は、小胞体を経由せずに行われます。 すなわち、サイトゾル中の遊離リボソームによって翻訳されたタンパク質は、たとえ膜タンパク質であっても直接ペルオキシソームへと送られています。 したがって、膜タンパク質の輸送・膜への挿入・立体構造形成のプロセスを解明するためには、比較的系が単純化されたペルオキシソーム系をモデルとして解析することが有用であると考えられます。 また、明らかになった知見を基にin vitroタンパク質合成系とこの輸送系を組み合わせることで、新たな膜タンパク質発現系を構築できると期待されます。 これは、膜タンパク質の結晶構造解析に必要な大量の試料を確実に調製するために有用な技術へと発展する可能性があります。

これまでペルオキシソームへの輸送シグナルとしては、PTS1, PTS2という2種類のものが知られていますが、いずれも、ペルオキシソーム内部へと送られる可溶性タンパク質のシグナルであり、ペルオキシソーム膜中に挿入される膜タンパク質の輸送シグナルについては、統一的な見解が得られてはいません。 ペルオキシソーム膜挿入型タンパク質の輸送には、ペルオキシン(Pex)と呼ばれるペルオキシソーム形成因子タンパク質の1つPex19pが関与すると考えられています。 我々は、ペルオキシソーム特異的なABCトランスポーターであるPMP70のX線結晶解析を目指し、Pex19pとPMP70複合体の立体構造解析からPex19pによるペルオキシソーム膜タンパク質の認識機構を明らかにしようとしています。 次いで、Pex19pがペルオキシソーム膜上で結合するといわれているPex3p, Pex16p、さらには、Pex19pと関わる他のペルオキシンについて網羅的に構造と機能を解析する予定です。 その過程で、膜タンパク質の膜への挿入に関わるメカニズムを解明して、PMP70を正しく発現させるための要因を明らかにする計画です。 また、その過程で明らかになった膜挿入機能をin vitroタンパク質合成系と組み合わせることにより、PMP70以外のABCトランスポーターあるいは、膜挿入型タンパク質を大量発現させる系を構築し、それらの結晶化とX線結晶解析へと応用したいと考えています。