発光酵素反応

発光酵素反応の構造生物学研究

ホタルの発光でよく知られている生物発光現象は発光基質と発光酵素による反応で、一般にはルシフェリンールシフェラーゼ反応と呼ばれており、非常に興味深く明らかになっていない性質がたくさんあります。
(a)発光基質は同じであるにも関わらず、発光を手助けするタンパク質のわずか1アミノ酸を変化させると発光色が変化すること。
(b)発光は酸化反応によって生じ、その際の発光量子収率(生じた化学反応の内、光を出す反応の割合)が、ホタルの発光量子収率0.41(9)を筆頭に多くの生物発光反応の量子収率が、その他の発光反応に比べて量子収率が高いということ。

です。(a)の発光色変化についてはについては、ホタルルシフェラーゼと発光直前を模した反応中間体アナログDLSAとの複合体のX線結晶構造解析から、発光が生じるときのルシフェラーゼと発光体である励起状態のオキシルシフェリンの相補性が、発光色を決定するために重要であることを世界で初めて報告しました(10)。(b)の発光量子収率については、発光色と発光量子収率、そしてルシフェラーゼの構造との関係がどのようになっているのかを初めて明らかにすることができました(11)。

生物発光現象を示すタンパク質は緑色蛍光タンパク質GFPがノーベル賞の対象となり一躍有名になりました。GFPは蛍光タンパク質でイメージングによく利用されています。最近では発光も多く用いられるようになり、ガウシアルシフェラーゼによるインシュリンの分泌の様子(12)や、ホタルルシフェラーゼを用いた動物個体のバイオイメージング(13)への応用がなされています。このような応用への展開を進めていくためにも、発光現象の基本をタンパク質の立体構造を基に理解することが大変重要です。 そこで我々はホタルの発光酵素ルシフェラーゼのみならず、オワンクラゲの発光タンパク質イクオリン、エビの発光酵素ルシフェラーゼ、などにも対象を広げながら、研究を進めています。そして、詳細な発光反応を明らかにすることを目的にSACLAを用いたSFX実験を開始しています。

ホタルルシフェラーゼ-DLSA複合体の立体構造

(9) Ando, Y et, al (2008) Firefly bioluminescence quantum yield and colour change by pH-sensitive green emission., Nature Photo, 2,44-47.

(10) Nakatsu T, Ichiyama S, Hiratake J, Saldanha A, Kobashi N, Sakata K, Kato H. (2006) Structural basis for the spectral difference in luciferase bioluminescence. Nature 440, 372-376

(11) Wang Y, Akiyama H, Terakado K, Nakatsu T. (2013) Impact of site-directed mutant luciferase on quantitative green and orange/red emission intensities in firefly bioluminescence. Sci Rep, 3, 2490

(12) Suzuki T et, al. (2017) Quantitative visualization of synchronized insulin secretion from 3D-cultured cells. Biochem Biophys Res Commun. 486, 886-892

(13) Iwano S. et, al. (2018) Single-cell bioluminescence imaging of deep tissue in freely moving animals. Science, 359, 935-939