実践臨床薬学分野

  • 教授  山下 富義
  • 講師  津田 真弘
  • 助教  宗 可奈子

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研究概要

人口の高齢化により疾病構造が変化し、医療の高度化・複雑化がますます進んでいます。これまでに多くの医薬品が開発され医療に多大なる貢献をもたらしてきましたが、実臨床にある患者への投薬は、患者の遺伝的背景、生活環境、健康状態など大きく異なる状況下で行われるため、適正かつ公正な臨床試験を経て有効性・安全性が保証された医薬品であっても効果が限定的であったり、薬物間あるいは薬物−食品間相互作用による副作用、イディオシンクラティック(特異体質的)な副作用が予期せず発現したりすることも少なくありません。こうしたリスクを回避するためにはその原因を究明した上で、医薬品開発におけるリスク評価法を構築すること、リスク回避のための製剤技術を開発すること、臨床における投薬設計・モニタリング法を確立することが不可欠です。こうした視点から、現在私たちの研究室では、以下のような研究に取り組んでいます。

生体分子認識を利用した組織・細胞内標的指向化システムの開発研究

生体に投与された薬物は、多くの場合非特異的な組織分布を示しますが、内因性物質の特異的な分子認識機構が利用できれば薬物を作用部位選択的に送達することが可能です。そこで、脂質や合成高分子からなる小胞を薬物のキャリア(運搬体)とし、小胞表面を受容体認識分子で修飾した標的指向化ドラッグデリバリーシステムの開発を行っています。具体的には、炎症血管に発現するE- セレクチンを認識する糖鎖や、がん細胞に高発現するトランスフェリン受容体に結合するペプチドを使って、これらの標的細胞内に薬物を効率よく取り込ませることに成功し、さらに小胞体輸送に関わる分子認識を利用して、細胞内動態の制御および薬理効果の増強を試みています。

マイクロ流体デバイスを利用した薬物動態・毒性評価システムの開発研究

医薬品の探索研究において候補物質の体内動態特性を把握するために、培養細胞を用いたインビトロ動態試験が活発に行われます。この際、用いる細胞の機能がヒトを反映するのが理想とされる中で、最近ヒトiPS 細胞への期待が高まっています。現在、マイクロ流体デバイスの上に細胞を播種し、2D あるいは3D 環境で灌流培養することによって、ヒト組織での薬物動態や毒性をチップ上で評価しうるシステムの開発を行っています。

副作用データベースの解析とリスク評価への応用に関する情報科学的研究

医薬品の副作用は、それが起きた患者に対して臨床的な負担をもたらす上、医療現場や製薬企業にも社会的、経済的分担を強いることになります。市販後の安全性情報に関する大規模データを疫学的に解析することによって、副作用発現における特徴量を見出し、リスク低減・回避に向けた行動計画を立案できます。現在、肝毒性のある薬物を網羅的に探索してバイオマーカーを見出し、リスク評価に応用しようとする研究を展開しています。

副作用発現の分子動態学的・薬理学的解析と予防・治療法への展開に関する研究

医薬品による副作用は、臨床現場においてしばしば生じる問題であり、患者のQOL の低下を招くほか、治療の妨げとなっています。その発現のメカニズムを薬物動態学的・薬理学的側面から明らかにすることで、副作用への対応が可能となり、その発現の予防や症状の軽減に繋げることができます。現在、抗HIV 薬における薬物動態制御因子の探索とHIV 関連神経認知障害発症制御に向けた適切な抗HIV 薬の選択法に関する研究および、がん化学療法時に発生する副作用である味覚障害のメカニズム解析に関する研究を展開しています。

 

主要論文
  • Ota R, So K, Tsuda M, Higuchi Y, Yamashita F. Prediction of HIV drug resistance based on the 3D protein structure: Proposal of molecular field mapping. PLoS One, 16(8), e0255693 (2021).
  • Sasaki Y, Tatsuoka H, Tsuda M, So K, Higuchi Y, Takayama K, Torisawa YS, Yamashita F. Intestinal permeability of drugs in Caco-2 cells cultured in microfluidic devices, Biol Pharm Bull, 45(9), 1246-1253 (2022).
  • Zhang Q, Taniguchi S, So K, Tsuda M, Higuchi Y, Hashida M, Yamashita F. CREB is a potential marker associated with drug-induced liver injury: identification and validation through transcriptome database analysis. J Toxicol Sci, 47(8), 337-348 (2022).
  • Chantarasrivong C, Okada R, Yamanea Y, Yang X, Higuchi Y, Konishi M, Komura N, Ando H, Yokokawa R, Yamashita F, Disposition of E-selectin-targeting liposomes in tumor spheroids with a perfusable vascular network. Drug Metab Pharmacokin, 46, 100469 (2022).