フィールドワークを軸とした(1)シソ、(2)ジンコウ、(3)ケイヒ、に関する研究
(1)シソ(紫蘇)
- シソに関しては、当研究室は精油成分を中心とした遺伝学的研究をはじめ、薬理活性に関する研究や、分類学的研究、精油成分の詳細分析等々、さまざまな角度からシソ属全体を対象とした研究を展開してきています。近年は、精油成分生合成に関連する酵素遺伝子のクローニングと機能解析を中心とした生合成経路の解明と、これに密接に関連する、野生種(染色体数2n=20)と栽培種(染色体数2n=40)の類縁関係、ひいては、栽培種のルーツ探索に力を入れています。
(2)ジンコウ(沈香)
- 我が国の奥ゆかしい伝統である香道の主役が、沈香の中の最上級品である伽羅(きゃら)です。芳香性の樹脂がたっぷり含まれたジンチョウゲ科のいくつかの種の材が沈香であり、伽羅であるのですが、換金性の高さ故か、その採集や生産については長い間ブラックボックス状態でした。一方、産地である熱帯〜亜熱帯の森林の急激な減少と、乱獲のため、野生のジンコウノキが激減し、近年ついに絶滅危惧種に指定され、国際取引が厳しく規制されるに至っています。そこで、この謎の多いジンコウを多角的に追究し、沈香樹脂の生成機構の解明をはじめ、基原の分類学的な検討や、樹脂成分の薬理活性についても検討する、複眼的な研究を展開しています。
- 「沈香も焚かねば屁もひらぬ」というフレーズが落語にありますが、沈香は高級品になるほど、燃やすのではなく、「あたためて」香りを聞くものです。香りは一様ではなく、1片ごとに異なるばかりか、同じ塊の部分によっても異なるほどで、実際、ガスクロマトグラフィーなどの機器分析を行いますと成分組成に違いがみられます。現地調査との組み合わせで、知るほどに興味のつきない生薬・香木が沈香ですが、中東諸国では蒸留油の形の利用が多く、これについてはまた別なアプローチが必要なこともわかってきました。沈香の香りをいただくと、気分が落ち着くと言われていますが、実際、マウスを用いた吸入投与の実験では、有為な行動抑制活性(鎮静傾向)が観察されています。
(3)ケイヒ(桂皮)
- 生薬である桂皮は、また香辛料のシナモンとしても多く利用されていますが、利用の歴史や量の多さの割に、研究報告の少ない薬用植物です。基原が熱帯〜亜熱帯性の木本で我が国では栽培できないため、使われるものはすべて輸入されたものであり、中国産とベトナム産がほとんどです。中でも、原産地と言われているベトナムの桂皮について、これまでほとんど紹介されることが無かった栽培地の現状や基原の分類について、現地研究者と協力しながら研究を進めてきています。また、主たる香辛精油成分であるケイアルデヒドの味覚刺激についても調査を行っているところです。
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