抗体は極めて高い特異性を示す “究極の分子認識ツール” です.これを細胞内に導入できれば,細胞内標的分子の局在や動態の可視化や分子間相互作用やシグナル伝達の精密な制御が可能になります.こうした能力は,疾病関連タンパク質の機能解明やその制御にも直結し,細胞生物学・化学・医療のいずれの分野においても大きなインパクトをもたらします.しかし,抗体は高分子量で高い親水性をもつため,細胞内へ効率的に送達することが極めて困難でした.この課題を克服することこそが,新たな研究手法の創出や革新的治療法の実現に向けた重要な鍵となります.
私たちの研究グループでは,独自に開発した高い細胞内導入活性をもつペプチド L17E と,抗体との相互作用により形成される液滴状コアセルベート(マイクロ濃縮体)を組み合わせた 細胞内抗体送達技術 を確立してきました.このシステムは,抗体を高効率に細胞質へ送り込み,細胞内標的との結合を可能にします.
現在は,これらの技術のさらなる効率化と安定化を進め,
・培養細胞レベルで実用的に使える細胞内分子操作技術としての確立
・疾病関連分子を標的とした医療応用の可能性探索
に挑戦しています.細胞内抗体送達の実現は,生命化学研究の新たな地平を切り拓くとともに,将来的な治療戦略の革新にもつながると期待しています.