極性を有する上皮細胞への遺伝子導入による
生理活性タンパクの方向選択的デリバリー
【研究の背景】
上皮細胞は体表面や体腔の表面を覆う極性を有する細胞で、広大な表面積を有しており、遺伝子治療の重要なターゲットと考えられています。その形質膜はタイトジャンクションにより頂側膜
(apical)
側と基底膜
(basal)
側に物理的に隔てられています。こうした上皮細胞にサイトカインなどの分泌性タンパク質をコードした治療用遺伝子を導入・発現させるアプローチは、そのタンパク質を全身あるいは局所にデリバリーするための有用な方法と考えられます。この際、遺伝子産物の分泌方向性、すなわち
apical
、
basal
どちら側に分泌されてくるかは、効果を左右する重要な因子となります。
近年、細胞内で生合成されたタンパク質には選別シグナルを持つものがあり、細胞がそのシグナルを認識して本来あるべき場所へタンパク質を正しく輸送するという事が知られています。しかしながら、分泌性タンパクの選別輸送に関するメカニズムには未だ不明な点が多く、その分泌方向性を制御するのは極めて困難なのが現状です。
【これまでの研究成果】
私達はすでに、種々の培養上皮細胞に発現させたインターフェロン
(IFN)
の分泌方向性について検討を行った結果、遺伝子の発現様式、つまり、一過性に遺伝子を発現させるか、構成的に発現させるかにより、同一タンパク質でも異なる分泌方向性を有するという興味深い現象を見出しました。ウイルス性肝炎や抗癌剤として臨床応用されている
IFN
および腎性貧血に対する造血促進剤として実用化されているエリスロポエチン
(EPO)
についてこの現象が確認されています。特に
IFN
については詳細なデータが得られており、特定の上皮細胞において構成的に
IFN
を発現させた場合には、
IFN
は
apical
、
basal
両方向にほぼ均等に分泌されるのに対し、一過性に発現させた場合には、遺伝子導入を行った方向に
IFN
が選択的に分泌され、あたかも上皮細胞が遺伝子の侵入方向を認識しているかのような結果が得られています。この現象は、遺伝子導入方法や
IFN
のタイプ(マウス型かヒト型か、あるいは
IFN-
b
か
IFN-
g
か)によらず起こることも分っています
(1)
。また、
Grenn fluorescence Protein (GFP)
を用いて
IFN
の細胞内局在を詳細に検討した結果、一過性に発現させた
IFN
と構成的に発現させた
IFN
の分泌には、異なる分泌経路が関与している可能性が示されました
(2)
。現在、これらの情報を基盤として、上皮細胞の
apical
側から遺伝子導入後、発現させた
IFN-
b
が
basal
側に分泌するように
IFN-
b
の分子設計を試み、遺伝子導入後の分泌方向性を制御できる方法について検討中です。このような試みは、新しい遺伝子治療の方法論として意義深いものと考えられます。
【参考文献】
-
Secretion Polarity of Interferon (IFN)-
b
in Epithelial Cell Lines
Kiyo Nakanishi, Yoshihiko Watanabe, Masato Maruyama, Fumiyoshi Yamashita, Yoshinobu Takakura and Mitsuru Hashida
Arch. Biochem. Biophys. 402(2), 201-7. (2002)
Abstract(PubMed)
-
Subcellular Trafficking of Exogenously Expressed Interferon-
b
in Madin-Darby Canine Kidney Cells
Masato Maruyama, Teruko Nishio, Takako Kato, Toyokazu Yoshida, Chisaki Ishida, Yoshinobu Watanabe, Makiya Nishikawa, Yasufumi Kaneda and Yoshinobu Takakura
J. Cell. Physiol. in press
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