研究内容(2023年3月までの情報です)
当病態情報薬学分野は、疾病治療のために生体に投与される「モノ」としての“くすり“と投与される側の”生体(からだ)“との関わりを、生物薬剤学、薬物動態学、ドラッグデリバリーシステムなどの学問的バックグランドに基づき、研究領域の枠に囚われることなく学際的な視点から追求し、“薬物投与の最適化”を通じて理想的な薬物治療を実現させることを目的に研究活動を行っている。こうした実学、応用科学としての薬学において薬物治療に直接的な貢献をすることに加え、一連の研究において対象となるくすりの体内での挙動を決定している生体の機構を解析することにより、最終的には“からだの不思議”を解き明かすことを目指す。 現在、研究室において進行中の研究テーマは以下のとおりである。 主な研究内容1)細胞外小胞の生理機能の解明 細胞から分泌される脂質二重膜から形成される細胞外小胞(Extracellular vesicles; EV)はタンパク質やDNA・RNAの細胞間物質輸送担体として機能しています。これまでに、がんやアレルギー、中枢神経性疾患等の疾患における関与が示されるとともに、発生・分化や免疫、老化といった生体の発生と恒常性の維持にも関わっていることがわかっています。我々は主にEVの生体内の挙動に着目し、これを手掛かりとしてEVの生理機能の解明を目的とした検討を行っています。これまでに、EVの体内における挙動の規定要因を明らかにしました。また、がんにおけるEVの役割を明らかとするとともに、生体内におけるEV量の決定機構についても明らかにしました。 代表論文 Matsumoto A, Takahashi Y, Chang HY, Wu YW, Yamamoto A, Ishihama Y, Takakura Y. Blood concentrations of small extracellular vesicles are determined by a balance between abundant secretion and rapid clearance. J Extracell Vesicles. 2019; 9(1): 1696517. PMID: 31807238 Imai T, Takahashi Y, Nishikawa M, Kato K, Morishita M, Yamashita T, Matsumoto A, Charoenviriyakul C, Takakura Y. Macrophage-dependent clearance of systemically administered B16BL6-derived exosomes from the blood circulation in mice. J Extracell Vesicles. 2015;4:26238. PMID: 25669322 2)細胞外小胞を基盤とした疾患治療法の開発 内因性の物質輸送担体であるEVは、核酸やタンパク質等、生体由来分子のデリバリーシステムとして有用であり、これを利用した疾患治療法の開発が期待されています。我々は、EVを利用した疾患治療法の開発のために必要となるEVの産生・回収方法の最適化やEVへの薬物の搭載方法、EVの体内動態制御法の開発とそれに基づく疾患治療法の開発に取り組んでいます。これまでに、疾患治療に適したEV産生・回収法と薬物搭載法について報告してきました。さらに、EVの動態制御法を開発し、それを応用したがんワクチン療法の開発にも成功しました。 代表論文 Matsumoto A, Takahashi Y, Ariizumi R, Nishikawa M, Takakura Y. Development of DNA-anchored assembly of small extracellular vesicle for efficient antigen delivery to antigen presenting cells. Biomaterials. 2019; 225: 119518. PMID: 31586864 Morishita M, Takahashi Y, Matsumoto A, Nishikawa M, Takakura Y. Exosome-based tumor antigens-adjuvant co-delivery utilizing genetically engineered tumor cell-derived exosomes with immunostimulatory CpG DNA. Biomaterials. 2016, 111, 55-65. PMID: 27723556 3)バイオマテリアルを利用したドラッグデリバリーシステムの開発 タンパク質や、DNA・RNAといった核酸は高い生体適合性を有するとともに、その配列の設計によってさまざまな機能の賦与が可能なバイオマテリアルです。我々は、これらのバイオマテリアルを利用した、ドラッグデリバリーシステムの開発を行っています。これまでに、DNA・RNAの相補鎖形成能を利用した核酸ナノ構造体が効果的なドラッグデリバリーシステムとなることを報告してきました。現在は、核酸を基盤としたデリバリーキャリアの開発に加え、タンパク質を素材としたシステムの開発についても検討を行っています。 |