この項ではこれまでに得られた知見をトピックスの形でまとめました。すべて教室員の共同研究により行われたものです。
詳細に関しては、それぞれの項末の参考文献を読んでいただけると幸いです。

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プロスタグランジン受容体の研究 ・・杉本幸彦 助教授

1)プロスタグランジン受容体の構造と機能の研究
 プロスタグランジン (PG) E2 受容体は長い間、その実体が不明でした。私たちはトロンボキサン A2 受容体のクローニングに端を発し、4種類のPGE2受容体サブタイプ(EP1, EP2, EP3, EP4)を含むすべてのプロスタノイド受容体をクローニングし、その一次構造、シグナル伝達機構を解析しました。それらの知見は今も PG 関連医薬品(アゴニスト、アンタゴニスト)の開発に重要な貢献をしています。現在もPGE2受容体を中心にキメラ受容体や変異受容体を作成し、その構造と機能の関係を探っています。

2)プロスタグランジン受容体の組織分布
 生体内の組織によって PG に対する反応性が異なるのは何故でしょうか?その一つの要因は、種々の細胞、組織に分布する受容体サブタイプに違いがあることです。また、この検討から得られる情報は、どの疾患に対してどのサブタイプを標的にして創薬するかという戦略を立てる上でも重要です。
 私たちは、これまでにマウスの腎臓、中枢・末梢神経、消化管、皮膚、卵巣、子宮など、さまざまな組織におけるサブタイプの局在を調べ、どのサブタイプが発熱や疼痛、あるいは消化管保護や生殖生理に関与するのか考察を行ってきました。現在は、さまざまな炎症や病態条件下での組織に焦点を当てて解析を進めています。

3)プロスタグランジン受容体欠損マウスの解析
FP 受容体欠損マウスの解析
 FP 欠損マウスでは分娩が正常に起こらず、帝王切開により胎仔を救出しなければなりません。PGF2αの分娩誘導プロセスにおける重要な機能を FP 欠損マウスの解析を通して明らかにしました。

EP4 受容体欠損マウスの解析
 EP4 欠損マウスの胎仔は生後まもなくほとんどが死んでしまいます。また、妊娠時に PG 合成阻害剤である NSAIDs を服用することは危険であることが知られています。EP4 欠損マウスの解析により、こうした現象の生理的なメカニズムの一端が明らかにされました。

EP3 受容体欠損マウスの解析
 インドメタシンやアスピリンといった PG 合成阻害薬は優れた解熱・鎮痛効果を持っています。EP3 欠損マウスを用いた解析により、バクテリア感染による発熱には EP3 サブタイプが関与することが明らかになりました。EP3 特異的なアンタゴニストは食後に服用する必要のない解熱剤となるかもしれません。

EP2 受容体欠損マウスの解析
 生殖生理と PG との関係は古くから示唆されていましたが、その作用点は長い間不明でした。EP2 欠損マウスの解析から排卵、受精のステップにおいて PG は重要な機能を有することが明らかにされました。