Research

ペプチド・タンパク質の化学合成技術を活かした生物活性評価法の開発と応用

非天然型アミノ酸や翻訳後修飾基を有するペプチド・タンパク質を合成する場合には、アミノ酸を順次縮合してペプチド鎖を構築する化学合成が強い力を発揮します。当研究室では、さまざまな特徴的構造を有する生物活性ペプチドや機能性タンパク質の効率的合成法を開発するとともに、化学合成により得られるペプチド・タンパク質を活用した生物活性評価法の開発を進めています。最近では、天然物の鏡像異性体からなる化合物群の生物活性を仮想的に評価するための新しいアプローチの構築に取り組んでいます。

Development of mirror-image screening systems for XIAP BIR3 domain inhibitors.

BIRドメインは、カスパーゼの活性を阻害する約70残基からなるZnフィンガー様の構造です。このうち、XIAPタンパク質中のBIR3ドメインに対する阻害剤は、腫瘍細胞をアポトーシスに誘導する薬剤として期待されています。我々は、天然物の鏡像体ライブラリーからXIAP BIR3ドメイン阻害剤の探索を行うために、XIAP BIR3ドメインの化学合成法を確立しました。本手法はBIRドメインのはじめての化学合成例であり、さまざまなBIRドメイン含有タンパク質に対する阻害剤の探索への応用が期待されます。
Bioconjug. Chem. 30(5) 1395–1404. (2019)

Investigation of the inhibitory mechanism of apomorphine against MDM2-p53 interaction.

アポモルヒネは、パーキンソン病の治療薬として用いられている非選択的ドパミン受容体アゴニストです。我々は、化学合成タンパク質を用いた抗がん剤の候補化合物の探索研究において、アポモルヒネの両エナンチオマーがMDM2に作用することを見出しました。また、本来分子認識が異なるはずの2つのエナンチオマーがいずれも生物活性を示すのは、アポモルヒネの酸化によって得られるオキソアポモルヒネがMDM2のCys77のチオール基と共有結合し、その機能を失活させることによるものであることを明らかにしました。
Bioorg. Med. Chem. Lett. 27(11) 2571-2574. (2017)

Synthesis of the Src SH2 domain and its application in bioassays for mirror-image screening.

Src SH2ドメインは、細胞増殖のシグナル伝達系に関わるアダプタータンパク質です。我々は、天然物の鏡像体化合物群からの医薬品探索を可能にする生物活性評価系の構築の一環で、Src SH2ドメインの天然型タンパク質と鏡像体タンパク質の化学合成法を確立しました。得られたタンパク質は、リン酸化チロシン含有ペプチドとの強力な結合親和性を有しており、複数の生物活性評価系に応用可能であることを明らかにしました。
RSC Adv. 7(61) 38725-38732. (2017)

Synthesis of Grb2 SH2 domain proteins for mirror-image screening systems

我々は、以前の研究で、D-タンパク質を用いたスクリーニングにより天然物の鏡像体化合物群からの医薬品探索を実現するプロセスを確立しました。この天然物の鏡像スクリーニングを様々な標的タンパク質に適応させることを目的として、これまでに化学合成例のないSH2ドメインタンパク質の合成研究を行いました。2セグメント及び3セグメントによるGrb2 SH2ドメインの合成法を確立し、蛍光標識基等を有する鏡像体タンパク質を合成しました。また、これらを用いた生物活性評価系を確立し、SH2ドメインタンパク質が鏡像スクリーニングに応用できることを明らかにしました。
Bioconjug. Chem. 28 609-619. (2017)

Screening of a virtual mirror-image library of natural products

キラルな天然物の鏡像体は、天然物と同等の化合物特性を有していることから医薬品探索の新たなリソースとして期待されます。我々は、化学合成により調製した鏡像体タンパク質(D-タンパク質)をスクリーニングに用いることで、鏡写しの関係で生体内タンパク質(L-タンパク質)と天然物の鏡像体群との相互作用を効率的に評価する新規探索手法を開発しました。標的分子としてMDM2を選択し上記概念に基づく探索プロセスを実施した結果、ent-NP843をMDM2-p53間の新規阻害剤として見出しました。
Chem. Commun. 52 7653-7656. (2016)

Affinity-based screening of MDM2/MDMX-p53 interaction inhibitors by chemical array: Identification of novel peptidic inhibitors

MDM2、MDMXは癌抑制タンパク質p53の主要な負の調節因子であり、このタンパク質-タンパク質相互作用を阻害する化合物は抗癌剤として期待されます。また化合物アレイを用いたスクリーニングは、タンパク質ポケットに対するリガンド探索に有用です。我々はFmoc固相ペプチド合成によりMDM2、MDMX及びその蛍光標識誘導体を化学合成し、化合物アレイと蛍光偏光法を用いた阻害剤探索系を構築しました。その結果、当研究室の化合物ライブラリーから細胞増殖抑制活性を示すペプチド性阻害剤KPYB00497を見出しました。
Bioorg. Med. Chem. Lett. 23(13) 3802-3805. (2013)

Affinity selection and sequence-activity relationships of HIV-1 membrane fusion inhibitors directed at the drug-resistant variants.

新興・再興感染症治療薬の開発において、病原体のゲノム配列は最新の技術により極めて迅速に解析可能であることから、病原体のDNA配列情報をもとに最適な候補化合物をいかに 効率的に探索・設計するかが重要です。我々は、薬剤耐性HIVウイルスのDNA配列をもとに、ウイルス侵入に関与するタンパク質機能を阻害するペプチドをライブラリー混合物から効率的に選択する手法を 開発しました。本法ではウイルス粒子を用いることなく簡便にスクリーニングを実施可能であり、HIV以外の多様なウイルスに対する治療薬開発にも適用可能です。
Med. Chem. Commn. 1(4) 276-281. (2010)

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