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反転授業の試み

専門科目の講義で感じた問題点

 学部2回生科目「薬理学I(旧、生理学2)」は、薬学部独自の学問体系である薬理学や薬物治療学の導入として、生体メカニズムを理解してもらうことを目標として、2004年以来開講してきた科目です。薬理学の導入でありながら、薬物名を一切覚えずに生体と病気のメカニズムだけを学ぶ、国内の薬系学部ではわりと珍しい科目です。
 私は、もともと暗記科目というのは大キライです。薬剤師免許を取得して薬理の教授をしているものの、薬の名前を覚えるのは苦痛で、現場の薬剤師は到底できそうにありません。ただ長年、研究者をやってみると、結局、ある程度の知識は必要だ、ということも分かってきました。今ある薬を知らずに「創薬」なんて到底できません。そこで「薬の名前を知らなくても、その作用点である生体メカニズムは分かっている」ことを目標にしたわけです。
 「物を覚えるためには、手を動かさないと覚えない」ことも経験的に感じていました。そこでデジタル時代なのに、あえて板書をして、学生さんにはノートをとってもらいました。さらに定期試験の時にノートを提出してもらい、そのノートに加点することで、復習としてのノート整理を推奨しました。一方、試験に関しては、過去問と模範解答、成績分布、追跡調査をすべて公開することで、学ぶべき範囲や目的を明確にしたつもりです。
  ところが、教科書の記述を元にしてプリントで補足し、板書で進めるという授業形態は、板書に時間を取られる分だけ進行が遅く、口で伝えていることと板書の内容に明らかな乖離が生じてしまいました。ノートの整理も「する人はするが、しない人はしない」ことが、提出されたノートから明らかでした。その違いは試験によって明白になり、ノートの整理をする人は、どのような試験問題にも答えられました。ほぼすべての試験で、満点をとる学生さんはいます。
  一方で、過去問と模範解答を公開したことで、「それだけを暗記すれば良い」というように捉えてしまう学生さんが増えてきました。そして、ノートの整理をせず、試験前に模範解答の丸暗記を試みる学生さんの多くが、不十分な理解のために過去問と同一ならば解答を書けるけれど、少しだけ設問をアレンジしたら書けない、という状況で試験をクリアできず、多くの不合格者が生じていました。追再試ではカンニング未遂事件まで起こってしまいました。京大生ともあろう者が情けない話です。

 
改革に向けて

 これはもう、授業形態を根本的に変えてみる時期に来ているように思いました。そこで2016年(平成28年度)から、担当科目を次のような「反転授業」スタイルに変更しました。

    授業の目標、履修範囲、講義日程、教科書は、従来と同じ。
    履修生は、インターネットで公開する15-20分ほどのビデオ講義で予習する。
    ビデオ講義の動画は文字ですので、教科書と補足プリントを必ず手元に置いておく。
    予習のビデオ講義に必要な補足プリントは、前回の授業終了時に配布する。
    第1回目の講義で、そのやり方を実際に体験してもらう。
    授業前にノートパソコンを準備して、ネットに接続しておく。
    自分のパソコンを使っても良いし、貸与ノートパソコンも全員分あります。

    授業時間の最初には、ビデオ講義で学んだ内容について理解を確かめるため、PandAで簡単な小テスト(選択式)を行います。これをもって出席点としました。授業時間中は、その場で出す課題について、ノートにまとめてもらいました。
 中間試験と定期試験は、従来と同じスタイルで行いました。過去問の公開は、出題内容のみに変更し、模範解答は、直前の年度のものだけを公開しました。
 この「反転授業」のポイントは、予習が必要になることです。従来、学生さんに委ねていた復習を授業時間にすることになります。これによって、二極化している成績分布を底上げすることを期待していますが、反対に二極化がさらに進行する可能性もありました。2016年に試行した結果は、「こちらのPDFスライド」にまとめてみました。2017年はアクティブラーニングに取り組みましたが、そこで得た経験を京大の新任教員向けセミナーで講演したビデオがYouTubeで公開されています。
 
その後、さらに高等教育研究開発推進センターの田口真奈准教授と大学院生の澁川幸加さんに解析していただいた結果およびインタビューがCONNECTの教員インタビュー記事として公開されています。