TOP>融合研究コース 平成17年度 研究報告
 

ヒアルロン酸-CD44シグナルによる
マスト細胞の成熟抑制機構の解明

生体情報制御学分野  高野 裕嗣

研 究 指 導 主 任 :生体情報制御学分野 教授 中山 和久

研究指導協力者 : ゲノム創薬科学分野 教授 辻本 豪三

研究内容

背景

アレルギー疾患や自己免疫疾患などの免疫疾患は、それぞれ獲得免疫と自然免疫の過剰応答が原因である。マスト細胞は、IgE受容体とヒスタミンやプロテアーゼを含む顆粒を特徴として全身の組織に分布し、寄生虫感染時には自然免疫に携わる一方で、獲得免疫のエフェクター細胞として機能する。実際マスト細胞は、アレルギー疾患では中心的な役割を果たし、また線維症やリウマチなどの自己免疫疾患においても重要な役割を担っている(図1)。

図1 マスト細胞の分化と機能

マスト細胞は幹細胞から分化して局所に応じた成熟を遂げるが、
自然免疫にも獲得免疫にも働き、アレルギー、自己免疫疾患に
関与する。

ところでマスト細胞は、未熟なまま末梢組織に移行しその局所環境に応じた機能を獲得するが、これらの機能に関わる遺伝子の多型がアレルギーや自己免疫疾患の発症率に相関することが判ってきた。そのため、マスト細胞の組織特異的な機能発現の機構を理解し、これを制御することができれば、アレルギーや自己免疫疾患の予防や治療につながるものと考える。しかしながら、マスト細胞が種々の組織にサテライトとして点在するために単離・培養が困難で、その分化・成熟機構は十分に理解されるに至っていない。このような背景のもと、申請者はこれまでに骨髄マスト細胞から結合組織型マスト細胞への成熟過程をインビトロで忠実に再現する培養系を確立し、これを用いて以下のような知見を得ている。

  1. 成熟段階の異なるマスト細胞のマイクロアレイ解析を行い、マスト細胞の成熟に依存して発現変化する遺伝子群を同定した。
  2. これらの中からヒアルロン酸受容体であるCD44に注目し、(@)ヒアルロン酸結合阻害する抗CD44抗体、(A)ヒアルロン(HA)酸合成阻害剤、(B)CD44遺伝子欠損の影響を調べたところ、いずれもますと細胞の成熟を亢進した。従って、マスト細胞の成熟にはヒアルロン酸によるCD44シグナルが抑制的に働く可能性が示唆された。
  3. 実際、CD44欠損マウスの皮膚受動アナフィラキシー(PCA)反応を調べたところ、野生型より亢進していたことから、CD44欠損によりマスト細胞の過成熟が引き起こされ、これがアレルギー応答の亢進を導くものと考えられた。

目的

ヒアルロン酸-CD44シグナルによるマスト細胞の成熟を抑制の分子機構を明らかにすることである。

方法

上述のように、(@)抗CD44抗体、(A)HA合成阻害剤、(B)CD44遺伝子欠損、これらはいずれもマスト細胞成熟を亢進した。そこでこの3条件により共通して発現変化する遺伝子をマイクロアレイならびにクラスター解析により検索する(図2)。

図2 本研究の概念図

融合研究の意義はマイクロアレイ解析、クラスター解析に精通したゲノム創薬科学の辻本教授の指導の下、行うことができることにある。得られた遺伝子群の解析方法としては、順次マスト細胞に導入あるいはRNAi導入し、マスト細胞成熟の指標を調べ、各遺伝子の成熟における役割を評価する。

期待される成果

本研究は、従来不明であったマスト細胞の文化成熟機構の理解に貢献するのみならず、細胞外基質の構成成分であるヒアルロン酸がマスト細胞の成熟ならびにアレルギー応答を負に制御することを示唆するものであり、アトピー性皮膚炎のようなアレルギー疾患の予防・治療薬としての応用も考えられ、社会的意義が大きい。またCD44の下流で成熟抑制に働く遺伝子は、新たな抗アレルギー薬の標的となりうるものであり、波及効果が大きい。

 
 
 
 
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