TOP>融合研究コース 平成17年度 研究報告
 

α7ニコチン受容体に対する
植物アルカロイドの薬理作用の探索的研究

生体機能解析学分野 山内 陽介

研 究 指 導 主 任 : 生体機能解析学分野 教授 金子 周司

研究指導協力者 : 薬 品 資 源 学 分 野 教授 本多 義昭

研究内容

研究計画

 ニコチン受容体はアセチルコリン受容体のうちイオンチャネルを内臓する一群であり、骨格筋、中枢神経系でアセチルコリンによる興奮性神経伝達を担っている。ニコチン受容体には様々なサブタイプが存在しており、α サブユニットだけでも10種類のアイソフォームが存在し、さらにβ サブユニットとの組み合わせによって多様な表現型を有している。ニコチン受容体は中枢神経系において、認知や痛覚などの重要な生理機能に深く関わっていることが知られているが、中でも中枢ニューロンに特異的に発現しているα 7ホモ五量体を標的としたリガンド探索が盛んに進められている。本研究は、α 7受容体を標的とするリガンドをアフリカツメガエル卵母細胞発現系を用いた電気生理学的測定によって、効率的に探索する評価系を樹立することを目標にする。さらに本多教授との共同研究によって、植物由来成分からα 7受容体リガンドを探索する。

実験方法

  • cRNA注入卵母細胞の調製
  •  ラット由来のニコチン型アセチルコリン受容体&alph; 7サブユニット(α 7nAChR)をコードするプラスミドDNAから各々SP6 RNA ポリメラーゼを用いてcRNA を合成した(mMESSAGE mMACHINE, Ambion, TX, USA)。低音麻酔を施したアフリカツメガエル Xenopus laevis(浜松生物教材)の腹腔内より卵巣を摘出し、0.66 mg/ml コラゲナーゼ(Wako Pure Chemical Industries,Osaka,Japan)を含む培養液中で21゚C、60分、緩やかに振とうし、卵母細胞を覆う濾胞を除去した。合成した cRNA を Dummont 分類のX〜Y相(直径が1mm以上)にあたる卵母細胞に1細胞あたり 10 ng注入した。ペニシリン(10 U/ml)、ストレプトマイシン(10 µg/ml)、ピルビン酸(0.3 mg/ml)を含むBarth変法培養液(88mM NaCl,1mM KCl,0.41mM CaCl2,0.33mM Ca(NO3)2,0.82mM MgSO4,2.4mM NaHCO3,7.5mM Tris-HCl,pH7.6)中で 2 〜 4 日培養し、ACh 300 µM の投与に対し検出可能な内向き電流応答の見られる発現時期に測定を行った。

  • 電気生理学的測定
  • 記録溶液には内因性のCa2+依存性Cl-チャネルの影響を除く目的で Balium Frog Ringer 溶液(BaFR: 115mM NaCl,2mM KCl,2.5mM BaCl2,2mM MgCl2,1mM EGTA,10mM HEPES,pH7.4)を用いた。また一部 Calcium Frog Ringer 溶液(CaFR: 115mM NaCl,2mM KCl,2mM CaCl2,2mM MgCl2,10mM HEPES,pH7.4)を利用した。卵母細胞をチャンバーの溝に静置し、重力を利用して注射筒に入れた記録溶液を流速 1.5 ml/min で潅流した。前投与などの薬液投与は注射筒に用意した薬物入りの記録溶液に潅流液を切り替えることで行った。ACh の投与は一定速度の液交換が必要であるため、50 µl の薬液を潅流系に注入し、常に同じ注射筒からの潅流液を利用して投与を行った。Whole-cell 膜電流の測定は、膜電位固定用増幅器(OC-725C; Warner Instrument,Hamden,CT,USA)に接続された3M KCl を充填した2本のガラス電極(抵抗: 1 〜 2 MΩ)を細胞内に刺入し、膜電位を−80 mV に固定して行った。

結果

  1. アセチルコリン電流応答
  2.  まずはじめに安定した反応が得られるアセチルコリン(ACl,300µM)の投与量を検討した。潅流系に注入する薬液量を 10µl から 100µl まで変化させたところ 30µl までは容量に応じて反応性が増加したが、30µl から 100µl では電流反応は一定の値に落ち着くようであった(n=2〜9)。以下の実験ではAClの投与量として 50µl を採用した。次に ACh の電流反応の濃度依存性を検討した。濃度作用曲線の EC50 値は 163 ± 30 µM であった。以下の実験では ACh の濃度はすべて 300µM であった。以下の実験では ACh の濃度はすべて 300µM を用いている。

  3. 内因性 Cl- チャネルの影響の排除
  4.  α 7受容体の ACh に対する電流対応において、潅流液を BaFR にすることで内因性の Ca2+ 依存性 Cl- チャネルの影響が除けているか確かめる目的で ramp 波(250ms,−150mV〜50mV)をかけて IV-Curveをとった。潅流液が CaFR の時の逆転電位は - 21.1 ± 4.8mV (n=5)であったが、潅流液を BaFR に切り替えると逆転電位は - 2.8 ± 3.5mV (n=5)に変化し、外向き電流が減少している。したがって CaFR で見られた Cl イオン電流が BaFR では消失していると考えられる。

  5. 細胞内リン酸化状態の影響
  6.  PTK阻害薬である genistein は前投与することでα 7受容体の膜へのエキソサイトーシスを促進して ACh 反応性を増強させることが報告されている。今回 genistein 30µM 5分間前投与したところ ACh の電流応答の増加が検出された。

  7. 植物由来成分ガランタミンの影響
  8.  ACh 300µM の反応に対し、植物由来成分である galantamine 1µM を同時投与したところ潅流液として CaFR を用いた場合においても、BaFR を用いた場合においても 30% 以上の ACh 電流応答の増強が見られた。

以上の結果より、アフリカツメガエル卵母細胞発現系を用いた電気生理学的測定を利用したα 7受容体を標的としたリガンド探索に必要な評価系が樹立できた。

期待される成果

 これまでアフリカツメガエル卵母細胞発現系でα 7受容体を機能的に発現させ、アセチルコリン電流応答に対する植物由来成分であるガランタミンの増強作用を検出してきた。正に帯電した1-メチルガランタミンでも同様の増強作用を検出し、一方、これら増強作用は酸性条件下では見られずに、逆に減弱作用を持つ結果を得ている。細胞外環境に応じてガランタミンの作用が変化することは、この増強作用の作用機序研究において相反する報告が多いことにも関係があると考えられる。作用機序の解明にはアフリカツメガエル卵母細胞発現系のような単純な実験系を利用することが必要である。α 7受容体におけるpH変化に感受性のある残基、アセチルコリン、ガランタミンの結合に関連する残基を標的として、点変異実験を繰り返し行い、細胞外環境を操作しながらガランタミンの増強作用の詳細な検討を行う。この研究によるα 7受容体に対するアセチルコリン電流応答の増強作用の作用機序の解明は、α 7受容体を標的分子とした創薬に根拠を与えるとともに、増強作用の検出に最適なスクリーニング系の確立につながり、ゲノム創薬における創薬リード化合物の探索の一助になると考えられる。

 
 
 
 
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