本講座は昭和26年、我国初の薬剤学担当講座として創設された。薬剤学は、患者への医薬品の適用に関する方法論を広く研究する領域であり、本講座では設立以来、医薬品の有効性、安全性、品質を保証し、疾病の予防、診断、治療の最適化に貢献することを目的として、医薬品の投与方法と投与形態の設計に関する研究を行ってきた。
講座設立時は、抗生物質や新しいサルファ剤などが相次いで登場した時代であり、初代故掛見喜一郎教授は、それらの体液中濃度の測定や体内動態の追跡の問題を取りあげ、我国における薬動学研究の端緒を開いた。また、経口製剤のコーティングに関する研究など、後年の薬物投与形態の開発に関する研究の礎となる研究が行われた。
その後、“物としての医薬品原体の科学”と、剤形を含む“投与方法に関する科学”を総合することによってより洗練された薬物治療を実現しようとする思想が生まれ、昭和46年に就任した瀬崎仁教授は、薬物体内動態の精密制御を通じて薬物治療の最適化実現を図る新しい薬物投与形態ドラッグデリバリーシステム(薬物送達システム)の研究を講座の中心テーマに据え、思想の敷衍と技術開発の両面からその発展に努めた。
薬物体内動態の精密制御は、生体における薬物動態の分子機構の解明と動態制御技術の開発の両者を研究の基盤とする。平成4年より講座を主宰する橋田充教授のもとでは、現在、新規薬動学的評価解析法の確立、薬物体内動態の制御を可能とする新技術の開発、あるいは遺伝子治療など将来の医療へのこれらの技術の応用などを目的として、ドラッグデリバリーシステム開発のフロンティアを切り拓く様々な研究が推進されている。
こうした先端研究への取り組みを背景として、講座は平成5年独立専攻の創設に伴い大学院では動態制御システム薬剤学講座と名称を変え、さらに平成9年大学院重点化によって薬品動態制御学分野となった。しかしながら、ドラッグデリバリーシステムに代表される医薬品投与技術の問題だけでなく、医薬品の適正使用の立場からは最適化投与設計や医療情報など様々な課題への取り組みが医療薬学の諸分野に求められており、今後これらへの積極的な参加を通じて薬学・医学の発展に貢献することを目指している。