NPR/GCase受容体ファミリーの構造薬理学
ナトリウム利尿ペプチド受容体(NPR)ファミリーや、グアニル酸シクラーゼ(GCase)受容体ファミリーなどの「一回膜貫通型受容体」は、ホルモンなどの細胞外シグナルを細胞内へ伝達し、血圧調節、免疫応答、代謝制御などに関与する重要な分子です。高血圧やがんなど様々な疾患と関連しており、創薬標的としても極めて重要です(図1)。Gタンパク質共役型受容体(GPCR)では低分子合成アゴニストの開発が進み、多くの医薬品が実用化されている一方、一回膜貫通型受容体に対する創薬は著しく遅れています。これは、内在の基質が複雑な構造を持つペプチドやタンパク質であり、それらの作用を模倣できる低分子化合物の設計が困難であるためです。このため、阻害剤(アンタゴニスト)の開発は進むものの、促進剤(アゴニスト)の報告例は極めて限られており、本分野は創薬における未踏のフロンティアと位置づけられています(実験医学 増刊, 2025)。
例えば、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)の受容体であるNPR-Aは、私たちが長年研究を進めている受容体の一つです。心房から分泌されるANPは、血圧や体液バランスの調節に不可欠なホルモンです。ANPは28残基のアミノ酸から構成され、7番目と23番目のシステイン残基同士がジスルフィド結合を形成することで、17残基のアミノ酸からなる環状構造をとるペプチドホルモンです。心房から放出されたANPは血中を流れ、主として心房から遥かに離れた腎臓や副腎などに存在するA型ナトリウム利尿ペプチド受容体(NPR-A、分子量約130 kDaの一回膜貫通型受容体)の細胞外ホルモン結合ドメインに結合し、細胞内へシグナルを伝達することで、最終的に血圧や体液バランスの調節へと繋がります。一方、ANPの血中半減期は約30分と短いため、長寿命誘導体の開発も求められています。そのため、NPR-AがANPを認識する機構の解明は、医科学的に大きな意味を持ちます。これまでにその立体構造・機能について体系的な解析を行っており(J Biol Chem 2004 他多数)、特に膜近傍領域の回転が膜を介したシグナル伝達の核心的機構であるとする提唱は国際的に高く評価され、教科書『Biochemistry』(Garrett & Grisham)にも引用されています。
また最近では、「点対称」を持って向き合ったNPR-Aが、その一次配列に対称性を全く持たない1分子のANPを認識できるという興味深い機構、すなわち「結合したANPが擬似的に点対称の形をとることで、点対称に配置した2分子のNPR-Aに認識される機構」を世界で初めて解明することに成功しました(FEBS J 2024)。これは、NPR-AとANPの複合体構造を高分解能で決定し、独自の解析技術を開発・駆使することで得られた成果です(図)。
その他、軟骨代謝にも重要な役割を果たし、その先天性疾患変異が低身長症(先端肢節異形成症)の要因ともなるNPR-B、ならびにナトリウム利尿ペプチドの血中濃度の調節に関与するNPR-C等についても、機能・構造解析および合成アゴニストの開発等を進めております。

小川治夫, 古谷真優美, 錦見俊雄, 南野直人
ナトリウム利尿ペプチドとペプチド医療
実験医学 増刊Vol.43-No.2, 2025
「創薬の不可能を可能にする中分子ペプチド医療」第4章-2項, 菅裕明編
Ogawa H., Qiu Y., Ogata C. M., Misono K. S.
Crystal structure of hormone-bound natriuretic peptide receptor extracellular domain: Rotation mechanism for transmembrane signal transduction.
J Biol Chem, 279, 28625-28631, 2004.
Ogawa H. and Kodama M.
Structural insight into hormone recognition by the natriuretic peptide receptor-A.
FEBS J, 291, 2273-2286, 2024.