当研究室では、以下の研究に取り組んでいます。
- 心筋型リアノジン受容体の構造薬理学
- NPR/GCase受容体ファミリーの構造薬理
- ATP Binding Cassette (ABC)トランスポーターの構造薬理学
- クライオ電顕での新規解析技術の開発
心筋型リアノジン受容体の構造薬理学
心筋型リアノジン受容体(RyR2, 総分子量2.2 MDa)は心筋筋小胞体の超巨大なCa2+放出チャネルです。活動電位によって細胞外から流入したカルシウムイオンがRyR2に結合することでRyR2が開口し、筋小胞体に蓄えられたカルシウムイオンが瞬時に大量に放出され心筋の収縮が起こります。RyR2の遺伝子変異(300箇所以上)はさまざまな不整脈疾患の原因としても知られており、RyR2は不整脈疾患の標的分子としても注目を集めています。一方、この巨大なチャネルは単量体当りたった1個(即ち1分子のRyR2に4個)のCa2+が結合することで開口する驚くべき単純な機構を持ちます。しかし、「カルシウムイオンのような小さな分子が、一体どのように6万倍も大きな超巨大分子RyR2を制御しイオンを通す穴を開くか?」という点については謎のままでした。それもあり、不整脈疾患の効果的な診断や、治療のための創薬への展開は困難を極めていました。我々は、クライオ電子顕微鏡による単粒子解析により、閉状態と開状態の高分解能での構造決定を行い、Ca2+結合による開口機構を世界で初めて明らかにすることに成功しました。さらに、変異体の構造決定も行うことで、Ca2+は結合するもののチャネル孔は開いていない、言わば中間体状態の構造決定にも成功しました。詳細はこちらへ。
GCase受容体の構造薬理学
cGMPは生命の維持に必須な細胞内セカンドメッセンジャーです。cGMPはGTPからの変換により産生されますが、これを担う酵素がGuanylyl Cyclase (GCase)です。GCaseは水溶性と膜貫通型の2種類がありますが、前者は1998年のノーベル医学生理学省の受賞対象でもある「NO(一酸化窒素)」の結合により駆動されるGCaseです。一方、後者の膜貫通型GCaseは、細胞外での基質の受容が細胞内へ伝播することで細胞内のGCaseが駆動する「1回膜貫通型」の受容体で、我々はこの後者の研究を行っています。最も代表的なものは血圧や体液量の恒常性維持に必須の働きを担う「心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)」の受容体であるANP受容体です。ANPの医療での貢献は極めて高く、ANPそのものが心臓保護作用も併せ持つ唯一の急性心不全治療薬として世界で数百億円の巨大な市場を持ちます。このようにその重要性が明らかであるにもかかわらず、①ANP受容体やその類縁受容体が「ホルモンを認識」する機構や、②受容体に結合したホルモンが「膜を隔ててシグナルを伝達しGCaseを活性化する機構」は未解明な問題です。私たちはこれまで世界に先駆けてANP受容体の細胞外ドメインがANPと結合した構造をX線結晶解析で明らかにしましたが、その「全長構造」が未決定であるために、上記の2項目の問題の根本的な解明には至っていません。その「全長構造」が未決定である理由は、膜1回貫通型受容体が膜貫通領域を1本しか持たない等、取り扱いが極めて困難なことに起因すると考えられるます。そのため、ANP受容体を含めた膜1回貫通型受容体の構造解析は構造生物学における最後のフロンティアと言っても過言ではないと考えられます。詳細はこちらへ。