TOP
 
京都大学大学院薬学研究科医薬創成情報科学講座システムバイオロジー分野
研究紹介
Ride the Rhythm !  -Molecular Clock とは?-
プロジェクト研究
研究の歴史
業績リスト
新聞・テレビ報道
システムバイオロジー分野
教授紹介
メンバー紹介
ご案内
大学院生の募集
学部学生の方へ
アクセス・連絡先
 
研究の紹介
Ride the Rhythm! -Molecular Clock とは?-
リズムに乗って生きる
皆さんにとって時間とはどのようなものでありましょうか?勉強をしている時間、遊びの楽しい時間等々、私達の周りには「時」が満ちあふれており、私たちは「時」とともに生きているとも言って良いかも知れません。生物としてのヒトの時間は、受精した瞬間から、生まれ、成長しやがて大人になるまで、直線的にながれます。しかし、一旦成長が完成してから死に至るまでの間の長い活動的な期間においては、生物の体内の生理学的な多くの現象は、直進的な時間によってではなく、もう一つのある周期を持ったリズミカルな時間に支配されています。これらの一定の周期でおこるこの生命の示すリズム活動を生体リズム(biological rhythm)といいます。これらの周期現象の多くは、自然界の環境サイクルの長さに似た周期変化(概リズム;circa-rhythm)を取り、月経の様な月単位、睡眠・覚醒や副腎皮質ホルモン分泌の様な日単位、成長ホルモン分泌のような時間単位などがあります。このうち、最もその仕組みが研究されているのは約24時間周期のサーカディアンリズム(circadian rhythm)であります。このリズムが、単純に朝が来た、夜になったという昼夜のサイクルの受動的な反映ではないことは、ジェット機による地球の東西方向への数時間の旅行による時差ボケを体験すれば容易に分かります。旅行前後の時差に、我々の行動やホルモンの体内リズムは現地時間にすぐには順応できず、頭も体も不調となります。これらのことは、我々の体内にペースメーカーである体内時計(生物時計:biological clockともいう)があることを示しています。 体内時計を動かしているのが Molecular clock 分子時計です。
脳の時計
体内時計は、ほとんどの地球上の生物に存在いたします。生物進化の爆発と言われるカンブリア紀以前の地球ではまだ太陽光の有害な紫外線を遮るオゾン層はできていませんでしたので、原始的な生命は、地球の自転にともなう昼夜のリズミックな変化に適応するため、体内時計を発明したのでしょう。一旦できた体内時計の仕組みは、「標準時間」を告げる装置として進化とともに発達し、動物植物を問わず地上の生物に広く認められるようになりました。進化の頂点にたつ哺乳類では、特に脳が発達していますが、リズム発振装置が脳に移行して、強力な時計が脳深部の視交叉上核(「しこうさじょうかく」と読みます;suprachiasmatic nucleus)というところにできました。そこに存在する約一万個の神経細胞の一つ一つが小さな時計として働き、全体の一万個が協調して非常に正確な大きなリズムを発振し、他の脳部位や全身に時刻を知らせ、24時間周期のホルモン分泌、睡眠覚醒、さらに記憶・学習など高次の脳機能のリズムを引き起こすと考えられます。
視交叉上核について、もう少し、説明しましょう。視交叉上核は、脳底(「のうてい」と読みます。文字通り「脳の底面」です)にあり、左右の視神経が交叉する視交叉(「しこうさ」と読みます)の直上にある、大きさ0.5mm径(マウスでの大きさですが、ヒトでも約1-2mm径程度) のラグビーボールのような形をした本当に小さな神経核です。脳底の真ん中には第三脳室という脳の空洞があるのですが、その直下に左右一対あります。人では、視神経が発達していますから、本当にちいさく、視交叉の上端にめり込んでちょこっと乗っている感じです。この核が注目されたのは、この小さな核を破壊すると、行動リズムやホルモンリズムが完全に消失したからです。これは1972年のことですが、これ以降、20世紀末まで、視交叉上核の隔離実験、移植実験、それに次に述べる時計遺伝子の発現実験など、実にさまざまな実験が行われ、この小さな核に体のリズムを司る、体内時計があることが確立されました。

図)マウス視交叉上核でのPer1 & Per2 時計遺伝子の発現:
Per1, Per2はリズム位相を数時間ずらしながら、顕著なリズムを形成する。
時計と遺伝子
しかし、哺乳類においては、この長周期で非常に安定したリズムを制御する分子機構は長い間全く不明でした。しかし、最近、哺乳類時計機構の中心と推定される遺伝子が発見され、急速な勢いでこの分野の仕事が進展しています。我々は、哺乳類の時刻を告げる時計発振遺伝子と考えられるmPer遺伝子群を見つけ、その発現メカニズムを生体および分子レベルで検討しています。驚くべき事に、哺乳類の体内時計を構成する分子は、ショウジョウバエと非常に良く似た部品で構成されていることがわかりました。哺乳類の遺伝子発振の基本的メカニズムも、ハエのみならず、カビやバクテリアの一種と基本的に同じである事がわかり、まさに生体リズムは、太陽系の地球という惑星に生み出された仕組みであると考えられます。この時計機構は進化とともに磨きがかけられてきました。
時計遺伝子が見つかって始めてわかった、もう一つ重大な事実があります。それは、事実上体を構成する数十兆の全ての細胞が、時計遺伝子をリズミックに発現していることです。これは、以前は生体の特殊なところしか時計が無いという考え方からは、全く想像もつかないことです。この事実は、時間を刻む機構は、細胞の普遍的な機構の一つであることを示しています。これは、長周期の時間機構が、細胞機能の基本機能の一つであることを示しています。我々は、この細胞時計が、cell cycleの速度の調節をしていることを明らかにしていますが、これは、細胞時計のごく一部の機能でしょう。ミクロの「細胞時計」がどんな機能を司っているかを明らかにすることは、現在まだほとんどわかっていなくて、この研究は大変ワクワクすることです。
身体の時計
では、数十兆の体の時計は、どのようにして時を打つのでしょうか?こんなに沢山時計があったても、どうしてこんがらがらずに、きちっと24時間周期の時間を合わせられるのでしょうか?これは、司令塔があるからです。司令塔は先ほど述べた、脳の視交叉上核にあります。この司令塔は「強力な時計」で、強く時間を刻み、肝臓や皮膚の「弱い時計」の時刻を支配します。肝臓・副腎など多くの末梢臓器での「弱い時計」の発見は、数兆個にもおよぶ個々の細胞時計を統括する、視交叉上核を頂点とする巨大な「階層的時計機構」の存在を想定させます。
では、時の発振の仕方に、強い時計と弱い時計に差が有るのでしょうか?我々は、皮膚や腸管などありとあらゆる組織にあるfibroblast(線維芽細胞)という代表的な末梢組織の細胞に、脳と同じ時を作る遺伝子レベルの発振装置を発見しました。実は、脳の時計も末梢の時計も、遺伝子レベルの時の発振装置は同じなのです。この機構は全部がしっかりわかっているわけではありませんが、まさに脳は、遺伝子レベルでの発振装置を利用して、「時間」も管理していると言えます。
では、どのようにして、たかが一万個の脳の細胞が数兆個もの細胞時計を同調させることができるのでしょうか?どうやら、副腎というステロイドホルモンを作る内分泌臓器が大きな役割をしているようです。我々は、明るい光を眼に当てると、急速に副腎の遺伝子を活性化させ、副腎皮質ステロイドホルモンを分泌させることを、最近見つけました。この現象には視交叉上核が必須でして、通常のストレスで活性化される視床下部―下垂体―副腎系(HPA軸)でなく、交感神経を介する神経ルートで副腎に指令が行きます。どうやら、視交叉上核は、時間シグナルを一旦副腎に伝え、ここで、時間シグナルを神経情報から内分泌情報に変換して、全身の細胞に伝えるようなのです。この副腎皮質ホルモンは、昔から知られていた全身の糖代謝などを活性化するだけでなく、全身の時計を調律する役割も担っているのです。
分析から統合へ:時計研究は21世紀のライフサイエンスを切り開く
20世紀にライフサイエンスは飛躍的に進展しましたが、多くの生理現象は分析的手法でずたずたに解体されました。他分野に遅れて、ようやく20世紀末にその構成物質がつきとめられた生体リズム研究の特質は、ごく少数の遺伝子でその発振の原型が構成されるという事です。このシンプルなシステムは、さらに大きな特質を持っています。それは、遺伝子、細胞、局所回路(組織)、器官系、個体、その全てのレベルで、同じ、リズムという現象が現れ、その全てが測定可能であることです。従って、サーカディアンリズムの研究は、細胞内の遺伝子振動がいかにしてトータルとしての行動にまで至るかを解析する生体機能のインテグレーションメカニズムを探る、稀有なシステムとして注目を集めています。現在急速に発展している脳研究においても、遺伝子レベルでコードされているリズム現象が、遺伝子発現から細胞内情報伝達機構を経て、行動に至る全過程を説明できる系はほとんど無く、生体リズムはそのトップバッターとして期待されています。
「時による病気」は現代生活を脅かす生活習慣病の原因となる
また、21世紀を迎え、生体リズムと病気との関係が注目される様になりました。今や、交代性勤務、時間外勤務、長時間労働はあたりまえとなりました。それに伴い、不夜城とも言うべきライフスタイルは、もう珍しいものではなくなりました。ただ、こんな生活が続いて、本当に身体にとって大丈夫なんでしょうか?残念ながら、大丈夫ですとは言えません。なぜなら、哺乳類であるヒトの時計は、全生物の中でも最も強く、全細胞の基本的な代謝経路がリズムに支配されているからで、これが乱れたらどのようになるのかは、分かっていないからです。
残念ながら、不眠など睡眠・覚醒異常やうつ病、飽食に伴うメタボリック・シンドローム、老齢化と関連する骨粗鬆症、生活習慣病など、現代生活を脅かすさまざまな慢性の病気が、生体リズム異常と密接に関係しているとの報告が相次いでいます。まさに、時計異常が慢性疾患の病因になったりそれらを進行させたりする可能性があります。われわれは、最近、時計遺伝子異常マウスから時計に支配される新規ステロイド合成酵素を発見し、これがヒトの高血圧の原因の一つではないかということを提案しました。また、現在、ヒトのリズム異常の患者さんのゲノム解析から、あたらしい生体調節因子の同定に力を入れています。また、時計異常による癌の新しい発症・進展機構を提唱しています。
時計は基本的生命現象だけでなく、病気の本体の解明や治療のキーファクターとして注目されてきました。我々は、この時間の分子機構を、あらゆるポイントから研究し、病気のメカニズムを世界に向かって発信する基地にすることを目指しています。
わたしが企画した生体リズムの特集は、以下のものがあります。御覧になって下さい。
医学のあゆみ Vol.239 No.9 2011年11月26号 (医歯薬出版)
特集 体内時計と疾病
企画/岡村 均
http://www.ishiyaku.co.jp/magazines/ayumi/AyumiBookDetail.aspx?BC=923909
脳21 Vol.13 No.4 2010年10月20号 (金芳堂)
特集 生体時計と身近な病気
企画/岡村 均
http://www.molcom.jp/item_detail/55209/
メディカルバイオ Vol.6 No.6 2009年11月1号 (オーム社)
特集 時間と病気:生体時計から時間医学へ
監修/岡村 均
http://www.ohmsha.co.jp/medicalbio/200911h.htm
医学のあゆみ Vol.216 No.3 2006年1月21号 (医歯薬出版)
特集 時計遺伝子
企画/岡村 均
http://www.ishiyaku.co.jp/search/details.cfm?bookcode=921603
Medical Science Digest メディカル・サイエンス・ダイジェスト Vol.32 No.2
2006年第2号(通算407号)(ニューサイエンス社)
特集 時計遺伝子から疾患―睡眠障害―
特集編集/岡村 均
http://hokuryukan-ns.co.jp/magazines/archives/2006/01/medical_science_6.html
細胞工学 Vol.20 No.6 2001年6月号 (秀潤社)
特集 生物時計−細胞はいかにして時を刻むか
監修/岡村 均
http://www.shujunsha.co.jp/journal/saibo/bn/s2001_06.html
Molecular Medicine モルキュラー・メディスン Vol.36-No.10 1999年10月号(中山書店)
特集 時計遺伝子ー脳研究のホットスポット
Planner 岡村均
http://www.nakayamashoten.co.jp/molecular/mm36_10.html
また、当教室に興味を持たれた方は、

岡村 均(おかむらひとし)
TEL:075-753-9552
okamurah@pharm.kyoto-u.ac.jp

まで御連絡ください。郵便は、
〒606-8501 京都市左京区吉田下阿達町46-29
京都大学大学院薬学研究科システムバイオロジー分野
へお願いします。
 
PAGETOP
京都大学大学院薬学研究科・医薬創成情報科学講座システムバイオロジー分野  お問い合わせリンクサイトマップENGLISH京都大学
Copyrights 2007 Kyoto University Graduate School of Pharmaceutical Sciences
Sakyo-ku, Kyoto 606-8501, Japan