膜結合型マトリクスメタロプロテアーゼ-1を標的とした分子プローブの開発

膜結合型マトリクスメタロプロテアーゼ-1を標的とした分子プローブの開発

膜結合型マトリックスメタロプロテアーゼ-1(MT1-MMP)は、がん細胞外基質の分解に直接的に関与するマトリックスメタロプロテアーゼ-2の活性化因子として同定され、腫瘍形成の早期より発現し、その発現量が悪性度と相関することが報告されている。そこで本研究では、腫瘍の質的診断を目的として、MT1-MMPを標的分子とする核医学イメージングプローブの開発を計画した。

MT1-MMPを標的分子とする核医学イメージングプローブの開発においては、二官能性キレート分子の概念に基づき、核医学イメージングに適した線質・エネルギーを有する99mTcを、抗MT1-MMP抗体の抗原認識部位とは異なる部位に、Hydrazino-nicotinicacid(HYNIC)を介して安定に結合させた99mTc標識抗MT1-MMP抗体を作製した。次に乳がん移植動物を作製し、摘出した腫瘍組織におけるMT1-MMPタンパク質の発現を確認した後、その動物に99mTc標識抗MT1-MMP抗体を投与して経時的な生体内放射能分布変化を臓器摘出法により調べた。その結果、腫瘍への放射能集積量および腫瘍における血液に対する放射能集積比(T/B比)は経時的に増加し、それらの値は99mTc標識ネガティブコントロール抗体を投与した対照実験と比べて有意に高かった。以上の結果より、99mTc標識抗MT1-MMP抗体が、MT1-MMPの特異的検出に適した放射性薬剤となり得る可能性が示された。

また、MT1-MMPは動脈硬化プラークの不安定化にも密接に関与することから、我々は99mTc標識抗MT1-MMP抗体を用いた動脈硬化イメージングに関する検討も行った。

MT1AbforHP

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一方、上記の99mTc標識抗MT1-MMP抗体は非標的組織からの放射能消失が遅く、腫瘍をイメージングするためには投与後48時間以上の長時間を要することを認め、放射性核種の半減期から、より早期でのイメージングを可能とする方法の開発が求められていた。

そこで、放射性薬剤の投与後早期に腫瘍のイメージングを可能とするために、ストレプトアビジン(SAv)とビオチン(Bt)の高い親和性・特異性を利用して、まず担がんマウスにSAv結合抗MT1-MMP抗体を投与し、それが腫瘍のMT1-MMPに結合した後に、低分子のため非標的組織からの速やかな消失が期待される123I標識Bt(123I-(3-iodobenzoyl) norbiotinamide(123I-IBB))を投与して、これを生体内で腫瘍のMT1-MMPに結合させるという、プレターゲティング法を考案した。SAv結合抗MT1-MMP抗体の投与72時間後に125I-IBBを投与した結果、腫瘍部位へ集積した放射能は長時間保持された一方で、血中放射能は速やかに消失したことから、T/B比はプローブ投与後早期より99mTc標識抗MT1-MMP抗体と比べて有意に高い値を示した。また、125I-IBBを単独で投与した場合、腫瘍部位への放射能集積は認められなかったことから、プレターゲティング法で認められた腫瘍部位への放射能集積は前投与したSAv結合抗体によることが示され、プレターゲティング法の有効性が示された。さらに、プレターゲティング法を用いて、担がんマウスでの核医学イメージング実験を行った結果、123I-IBB投与後早期における明瞭な腫瘍部位のイメージングに成功した。以上より、SAv結合抗MT1-MMP抗体と123I-IBBを用いるプレターゲティング法は、投与後早期におけるMT1-MMPを標的とする腫瘍の核医学イメージングに有効である可能性を明らかとした。
さらに最近では、上記のプレターゲティング法の概念をMRIによる質的分子イメージングへと展開する試みも行っており、プレ投与したSAv結合抗MT1-MMP抗体依存的に、多くのGd錯体を修飾したデンドリマーをがん組織へ送達できることを明らかとしている。

MT1AbforHP2

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主要論文

  • Development of PEGylated peptide probes conjugated with 18F-labeled BODIPY for PET/optical imaging of MT1-MMP activity
    J. Control. Release 220 476-483 (2015)
  • In vivo Imaging of Membrane Type-1 Matrix Metalloproteinase With a Novel Activatable Near-Infrared Fluorescence Probe.
    Cancer Sci. 105(8) 1056-1062 (2014)
  • Miniaturized antibodies for imaging membrane type-1 matrix metalloproteinase in cancers.
    Cancer Sci. 104 (4) 495-501 (2013)
  • A Pre-targeting Strategy for MR Imaging of Functional Molecules Using Dendritic Gd-Based Contrast Agents.
    Mol. Imaging Biol. 13 (6) 1196-1203 (2011)
  • Radioimmunodetection of membrane type-1 matrix metalloproteinase relevant to tumor malignancy with a pre-targeting method.
    Biol. Pharm. Bull. 33 (9) 1589-1595 (2010)

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