メッセージ ~その(2)~

博士修了者からのメッセージ

岩崎 未央 博士

YouTubeでは「英語字幕版」も公開しています。

研究タイトル:「メートル長キャピラリーカラムを用いる網羅的なタンパク質解析システムに関する研究」

タンパク質は多様な細胞機能を細胞内外で直接制御しています。例えば、慢性骨髄性白血病や一部の乳癌などでは、疾病特異的に発現している受容体タンパク質が異常な細胞機能の原因であり、それらを標的とする薬剤によって細胞機能を正常化し、症状が抑えられることが知られています。このような様々な疾病原因の解明や創薬標的探索において、タンパク質の質的・量的変動を正確に知ることはきわめて重要です。しかし、ヒトだと約1万から2万種類のタンパク質が発現しており、またそれぞれの量差も大きく非常に複雑性が高いため、そのままでは測定・解析するのが困難です。これまで、細胞から抽出したタンパク質試料を化学的・物理的に分画し、それぞれを測定することで、試料の複雑性を軽減し同定数を向上させる試みが行われてきました。しかし、この手法では試料量が増大し微量試料の測定が困難であること、また途中の実験ステップでの吸着などによりタンパク質が失われ、結果として同定数の改善にあまり効果的ではないことが問題でした。

我々は、試料を分画するのではなく、質量分析計に直接接続する分離カラムの分離能を向上させることで、同定効率を著しく改善するシステムを開発しました。分離能の向上は、より長いカラムや小さい粒子を用いることで実現できます。一方で、送液に必要な圧力が高くなり操作が容易ではなくなるため、分離能が高く・圧力が低いカラムを用いる必要があります。モノリス型カラムは京都大学で開発されたカラムであり、骨格とその流路とが一体となった構造を持つため、送液に必要な圧力が小さく、分離能の高い長いカラムを使用できます。実際に我々は、3.5メートルのモノリス型カラムを用いることで分離能が向上し、大腸菌で発現しているタンパク質を一度で全て解析することに、世界に先駆けて成功しました。ヒトの細胞(子宮頸ガン由来培養細胞)では、我々のシステムを用いることで同定効率が従来法の約3倍改善することがわかり、分画を行わない手法としては世界最大のヒトタンパク質同定数を達成しました。

 

発表論文

大腸菌発現プロテオームの一斉解析手法の開発

[1] One-dimensional capillary liquid chromatographic separation coupled with tandem mass spectrometry unveils the Escherichia coli proteome on a microarray scale

Mio Iwasaki, Shohei Miwa, Tohru Ikegami, Masaru Tomita, Nobuo Tanaka, Yasushi Ishihama

平成22年4月発行 Analytical Chemistry 第82巻第7号2616頁-2620頁

 

モノリス型シリカキャピラリーカラムを用いた高感度ヒトプロテオーム解析

[2] Human proteome analysis by using reversed phase monolithic silica capillary columns with enhanced sensitivity

Mio Iwasaki, Naoyuki Sugiyama, Nobuo Tanaka, Yasushi Ishihama

平成24年3月発行 Journal of Chromatography A 第1228巻292-297頁

 

膜プロテオーム解析のための化学的消化法の開発

[3] Chemical cleavage-assisted tryptic digestion for membrane proteome analysis

Mio Iwasaki#, Takeshi Masuda#, Masaru Tomita, Yasushi Ishihama

平成21年4月発行 Journal of Proteome Research 第8巻第6号3169-3175頁

 

メートル長モノリス型シリカカラムを用いたヒト人工多能性幹細胞の高速・高深度プロテオーム解析

[4] Rapid and deep profiling of human induced pluripotent stem cell proteome by one-shot nanoLC-MS/MS analysis with meter-scale monolithic silica columns

Ryota Yamana#, Mio Iwasaki#, Masaki Wakabayashi, Masato Nakagawa, Shinya Yamanaka, Yasushi Ishihama

平成25年1月発行 Journal of Proteome Research 第12巻第1号214-221頁