薬学国際研究交流 part9

5-Alkyl-1,2,3,4-tetrahydroquinolines,membrane-interacting lipophilic metabolites,found in a unique combined-culture of Streptomyces sp.and Tsukamurella pulmonis.

薬学研究科 システムケモセラピー(制御分子学)分野

博士後期課程 2年 杉山 龍介

 

このたび私は京都大学大学院薬学研究科 国ie-2015-part9際研究交流大学院生支援事業の助成を受け、カリフォルニア州サンディエゴにて開催された国際学会(日・米・韓の産業微生物およびバイオテクノロジー関連学会が共同開催)“Natural Product Discovery & Development in the Post-Genomic Era 2015”で研究成果を発表して参りました。学会期間中のわずかな滞在ではありましたが、目で見て、肌で感じたことを記したいと思います。

天然物(Natural Products)は微生物や植物などの天然資源から得られる代謝産物のことで、創薬シード化合物の宝庫として長年重要な地位を占めてきました。しかし、新規物質の報告数は減少傾向にあり、従来の方法論に頼った化合物探索は苦しくなってきているのが現状です。様々な生物のゲノム情報が利用可能になった現代において、天然資源をこれからどう活用していくかという点が本学会のテーマでした。

招待講演では、当研究科でも講演して下さったMoore教授(UCSD, 米)をはじめ、本分野のトップサイエンティストが名を連ねており、非常に楽しみにしていました。この日のためにリスニングは随分練習したのですが、教材のはっきりした発音とは全く異なる「生きた」英語に戸惑い、辛うじて聞き取れる単語とスライド画面を頼りに内容を追うのが精一杯でした。私自身は一般ポスター発表で、細胞膜脂質に結合すると期待される新規天然アルカロイド5aTHQ類の単離・構造決定と生物活性について報告しました。私の研究では珍しい生理活性を示す天然物に着目しており、たとえば5aTHQ類のような脂質結合物質は、細胞膜を構成する脂質分子の生理的役割を理解するための有効なツールとなります。生理活性の他、例の無い分子構造や、2種類の放線菌を複合培養したときのみ生産されるという特徴にも興味を持っていただき、多くの方々がポスターを訪れて下さいました。自分の研究の面白さや将来の展望をもっとアピールしたかったのですが、いざ話してみると準備した英文を伝えるのに精一杯で、ディスカッションできる水準には達しませんでした。本学会で私には世界の研究の「受信」と自分の研究の「発信」という二つの目標があったのですが、いずれも英語力不足により不満足な結果で終わってしまいました。百聞は一見に如かずで、現地での苦い経験を経てはじめて、本気で英語を勉強しようと思えました。

もう一点印象に残っているのは、現地で仲良くなったオーストラリアの博士学生との会話です。私が「ここにいる先生方はとても有名だし、私は英語が苦手だから話しかけづらい」と話したとき、彼は「日本の先生方も、僕から見れば同じ位すごい。彼らと談笑できる君がうらやましい」と答えました。欧米諸国にトップクラスの研究機関が多くあるのは事実ですが、とりわけ化学の分野では、世界的に著名な研究者は確かに日本にも大勢います。今後私がどのような進路を辿るかはわかりませんが、国内でも海外でも、様々な人の考え方に触れ、学ぶべきことはきちんと学んだ上で、世界に一目置かれる研究ができる「日本人」であろうという気持ちを忘れないようにしたいと思います。