薬学国際研究交流 part6

University of Torontoでの貴重な経験

薬学研究科 精密有機合成化学分野

博士後期過程 2回生 繁田 尭

 

この度私は、京都大学薬学研究科 国際研究交流大学IEpart6

院生支援事業の援助によりカナダのUniversity of Torontoへ短期留学に行って参りました。

私が滞在したProfessor Douglas W. Stephan研究室では主に金属錯体とその応用を研究しておりますが、錯体の知見からFrustrated Lewis pair(FLP)の概念(嵩高い置換基を持つルイス酸とルイス塩基のコンビネーションは、互いの酸、塩基性を系中で相殺しない)を創案し、FLPに基づいた化合物群の設計により、有機分子によって分子状水素のヘテロリティックな開裂及び水素分子の安定的な保存を達成する等、有機化学分野においても非常に独創的な研究を発信しております。現在私は、川端研究室で新規有機触媒の開発に取り組んでおり、これまでにいくつかの反応を達成してきましたが、今回の短期留学では新たな有機触媒の概念と技術を習得することで、所属研究室とはまた違った着想や視点を取り入れることを目的として本支援事業に出願し、幸運にも渡航するチャンスを頂けました。

研究の詳細に関しては新規性の喪失を防ぐために多くは語れませんが、Professor Stephanから学んだ3ヶ月の研究生活はその多くが日本と異なり、驚きの連続でした。まず大学の研究に対する安全対策は非常に進んでいて、全研究室のすべての扉はオートロックになっており、研究室の鍵を借りるには安全テストをクリアする必要があります。大学内のほとんどの機器も使用のためにテストを受ける必要がありますが、すべての共通機器は学内ネットワークを通して繋がっていてとても便利でした。特に、測定時間がかかるような機械はすべて自動で測定を済ませ、測定結果はネットワークを介して送られてくるためとても研究がやりやすい環境でした。研究室内も、実験に必要なものはほとんどが手元に用意されていて、研究設備の充実度に驚かされました。

また生徒と教授の垣根の低さにも大変驚きました。Stephan先生は思いついたアイデアがあればすぐに生徒のデスクまで足を運び、至る所においてある黒板で研究についてディスカッションします。また生徒は自分の意見をはっきりと先生に伝え、先生は生徒が実際の実験で得た知見を尊重されていました。それは実験を始めて間もない私に対しても同様で、言葉が拙くとも意見を言うことの大切さを教えて頂きました。また研究室は多国籍な空間でしたが、その分それぞれの国の習慣などにも許容的であると感じましたし、コミュニケーションもお互いが分かり合えるようにしっかりと聞いてもらえる印象で、これは移民に寛容な国であるカナダの特徴でもあるのではないかと思いました。

研究者として生きていくために海外への情報発信は必須でありながら、日本にとって未だに重要な課題であると感じていますが、大学院生の間からこのような貴重な経験を与えて頂いた在籍研究室の川端先生をはじめ、関係者の方々にこの場を借りてお礼申し上げます。ありがとうございました。