The Centre for Drug Research への短期留学
薬学研究科 病態情報薬学分野
博士課程 1回生 田中 悠太郎
この度は京都大学大学院薬学研究科 国際研究交流大学院生支援事業による支援を受け、フィンランド・ヘルシンキ大学にあります The Centre for Drug Research への短期留学に行って参りました。
私が訪れた研究室の主題として、眼科領域の疾患、特に加齢黄斑変性に対する薬物治療の最適化があり、リポソーム製剤・細胞性剤の開発、融合タンパク質の合成、薬物動態シミュレーションなど、多岐に渡るプロジェクトが進行していました。私はその中でも、薬物動態シミュレーションのグループに参加させていただきました。具体的には、目のガラス体内に抗体製剤を直接注射した際の PK/PD モデルを構築し、動物実験を用いずに抗体製剤の眼内 PK/PD をシミュレーションするというものです。今まで私は、in silico での実験は全く経験がなかったので、研究を始めた当初は薬物体内動態の復習とモデル構築のために使うソフトの使い方の習得に多くの時間を掛けました。実験は主にもう一人のフィンランド人女性と進めました。しかし、彼女も薬物動態シミュレーションに関しては初心者だったらしく、二人で試行錯誤を重ねる日々でした。結果的には、この期間内でベストな PK/PD モデルを得るには至りませんでしたが、薬物動態シミュレーションの基礎に触れることが出来、今後の日本での研究にもどこかで取り入れていけたらと思っています。
今回が人生初の海外渡航でしたので、拙い英語を頼りに毎日が四苦八苦の状態でした。幸いにも、フィンランドの方々は英語が堪能で(母国語はフィンランド語・スウェーデン語)、コミュニケーション不全に陥ることはありませんでした。しかし、自分の英語力には呆れるばかりで、もっと普段から英語に触れて学ぶ必要があると感じました。フィンランドには日本でも縁のあるものがたくさんありますが、中でも一番有名なのはムーミンでしょう。幸運にも、今年はムーミンの原作者でありますトーベ・ヤンソン生誕 100 周年という記念すべき年で、街中が賑わっていました。国立美術館でもトーベ・ヤンソン展が行われており、ムーミンの絵コンテなど貴重な遺品を見学することが出来ました。ムーミンの他にもサウナ、オーロラ、熊肉、トナカイ肉などフィンランドならではのものを堪能しました。また、フィンランドの人々は表情が固く、シャイな人が多いので、一見接しにくく見えますが、一度打ち解けると明るく社交的な人が多かったです。僕が日本人だとわかると、すぐに他の日本人や日本語を話せる人を紹介してくれ、困ったときにはいつでも助けてくれました。
この留学を通してフィンランドについて学ぶと同時に日本についても改めて考えさせられました。日本という国は、非常に閉鎖的な島国で、独自の分化・言語を持ち、その独自性が故に海外に熱狂的な日本ファンが沢山いることがよくわかりました。そんな日本に生まれたことを誇りに思う一方で、自分の国について知らない、または英語で説明できないことが多々あり恥ずかしい気持ちにもなりました。
今後生きていく場所が日本なのかそれとも海外なのか、まだよくわかりませんが、これからはもっと自分の国に興味を持ち、誰とでも意思疎通できる語学を習得することで、立派な「日本人」を目指していきたいと思います。