システムバイオロジー分野

  • 教授  土居 雅夫
  • 講師  山口 賀章
  • 助教  三宅 崇仁

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研究概要

時間をコントロールして病気を治す。システムバイオロジー分野では、生体リズムを基盤とした時間医薬科学の創成を目指しています。時間の概念は、病気の治療薬の開発に重要です。病気の症状や薬の効き方は体内時計の時刻に応じて周期的に変動します。病気が発症しやすい時間帯や薬の効きやすい時間帯があるのです。不規則な生活習慣や加齢によって体内時計の機能が低下するとそれが原因でさまざまな疾病が発症することもわかっています。体内時計の時間を整えるという新たな発想の治療薬をつくれば、体内時計の異常によって生じるさまざまな病気を根本的に改善する薬になる可能性があるのです。以下に研究テーマを紹介します。

生体リズム中枢を標的とした生体リズム調整薬の開発

我々は、生体リズムの中枢を調節するオーファンG蛋白質共役受容体Gpr176 を同定しました(文献: Nat Commun 2016)。G 蛋白質共役受容体は薬理学上最も重要でかつ効率のよいターゲットとして知られる分子群です。化合物ライブラリーの網羅的探索によって生体リズム調整薬の開発を目指しています。

加齢にともなう疾患の時間治療戦略

加齢性臓器連関障害の原因となる脳内サーカディアンリズム中枢の役割、および、加齢性臓器機能障害における末梢臓器時計の役割について研究を進めています(文献: Nat Aging 2022)。体内時計を活用した抗老化・健康維持プロトコルの作成を行うとともに、体内時計を介した老化機構の本質へ迫りたいと考えています。

朝型 vs. 夜型

目覚まし蛋白質RGS16 を同定しました(文献: Nat Commun 2011)。RGS16 はGpr176 の下流に位置するG 蛋白質制御因子です。RGS16 はヒトの大規模コホート研究からも「朝型」を規定する遺伝子であると分かり、我々の研究の有効性がヒトでも確認されています。朝型vs. 夜型の分子機構をさらに掘り下げて創薬につなげたいと考えています(文献: Nat Commun 2019)。

昼寝の体温・代謝制御

昼寝の体温を制御するG 蛋白質共役受容体Calcr を発見しました(文献: Genes Dev 2018)。この受容体は脳内のサーカディアンリズム中枢に発現し、体温の日内変動を制御します。昼寝の生物学的メリットについては不明な点が多く、今回の知見を突破口にその謎へ迫りたいと考えています。

生体リズムの異常によって生じる疾患の解明とヒトへの臨床応用

我々は、体内時計の異常が高血圧症を引き起こすメカニズムを明らかにしました(文献: Nat Med 2010)。食塩を採りすぎると血圧が上がる、という、みなが知っているコモンディジーズのうら側に体内時計の異常があることを示したのです。現在、生体リズム異常マウスで見つけた高血圧症の原因分子をうまく利用してヒトのアルドステロン症の治療に役立てようと臨床応用研究を進めています。

体内にながれる時間を基軸にこれまでの疾患概念や創薬の在り方をかえたい。システムバイオロジー分野では、不眠症や高血圧に代表される生活習慣病や加齢性疾患に対して時間治療を目的としたタイムメディシンの創成を目指します。生体リズムを基盤とした時間医薬科学は、時間情報を扱う生理学と数理科学が融合する学際的な学問領域です。創薬を見据えた基礎生命科学、さらには新たな病態の究明・臨床応用にもつながる基礎と応用の広範なライフサイエンス諸分野を巻き込んだ研究領域といえます。

生体リズム異常と疾病の関係
時計遺伝子欠損マウスを解析することによって、生体リズム異常によって生じる疾病の全体像が明らかとなった。
  体内時計を制御するG 蛋白質シグナル
脳底に位置する一対の神経核が体内時計の中枢。Gpr176,Gz, RGS16 が発現。

 

主要論文
  • Sasaki et al. Intracrine activity involving NAD-dependent circadian steroidogenic activity governs age-associated meibomian gland dysfunction. Nature Aging 2, 105-114, 2022
  • Doi et al. Non-coding cis-element of Period2 is essential for maintaining organismal circadian behaviour and body temperature rhythmicity. Nature Commun. 10, 2563, 2019
  • Goda, Doi et al. Calcitonin receptors are ancient modulators for rhythms of preferential temperature in insects and body temperature in mammals. Genes Dev. 32, 140-155, 2018
  • Doi et al. Gpr176 is a Gz-linked orphan G-protein-coupled receptor that sets the pace of circadian behaviour. Nature Commun. 7, 10583, 2016
  • Doi et al. Circadian regulation of intracellular G-protein signalling mediates intercellular synchrony and rhythmicity in the suprachiasmatic nucleus. Nature Commun. 2, 327, 2011.
  • Doi et al. Salt-sensitive hypertension in circadian clock-deficient Cry-null mice involves dysregulated adrenal Hsd3b6. Nature Medicine 16, 67-74, 2010.