臨床薬学教育分野

  • 准教授 米澤 淳

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研究概要

これまでに多くの医薬品が開発され、薬物治療の発展に大きく貢献してきました。他方で、日本の医療は、高齢化、医療費の高騰、疾患や医薬品の複雑化、難病・希少疾患の増加など様々な課題を抱えています。近年、遺伝子情報、生活環境やライフスタイルにおける個々人の違いを考慮して疾病予防や治療を行う“PrecisionMedicine”が注目されています。臨床薬学教育分野では、実臨床の薬物治療で発見される課題を解決するための科学的基盤を構築するリバース・トランスレーショナルリサーチと、基礎的研究成果に基づいて新しい薬物治療を開発するトランスレーショナルリサーチを推進し、それぞれの患者に最適な医療を実現する個別化治療の開発を目指しています(図1)。以下に、当分野で展開している研究テーマについて概説します。なお、当分野は京大病院薬剤部(医療薬剤学分野)と一緒に研究をしています。

抗体医薬の個別化療法を目指した臨床薬理学的研究

薬物治療におけるバイオ医薬品の重要性が近年急激に高まっています。抗体医薬品はヒトの体内で免疫原性を持つことから、抗体医薬品に対する抗体(抗薬物抗体)が出現し、極端な薬効低下が引き起こされます。島津製作所と共同開発した抗体医薬品血中濃度一斉測定法などを用いて、京大病院のみならず全国15病院以上の施設と共同研究を実施しています。コホートデータなどのリアルワールドデータを活用することで、単に血中濃度と効果の相関を検討するのみならず、実臨床における薬物血中モニタリング(TDM)を活用した抗体医薬品の個別化療法実現への糸口を掴んでいます。

さらに、新しい分析技術を用いた薬物動態解析にもチャレンジしています。抗体医薬品は糖鎖付加修飾等のため低分子医薬品と異なり画一的な分子量が決まらず、精密な定量的評価法が確立されていません。我々は、抗体医薬品の血中からの単離とTOF-MS分析を用いた、抗体医薬の生体内構造解析法を確立し、生体内で抗体医薬品の糖鎖が変化することを見い出しました。また、DPP 4による抗体医薬品のバイオトランスフォーメーションも明らかにしてきました。バイオ医薬品の生体内構造解析法などの新しい分析技術開発や真の薬物動態の解明にもチャレンジしています。

トランスポータを対象とした薬物動態学および薬理学研究

1) 薬物の副作用発現に関わる腎有機カチオントランスポータの関与
薬物の副作用は薬力学的な要因だけでなく、薬物動態学的要因にも起因します。我々は腎臓の有機カチオントランスポータOCT2(取込型)とMATE(排出型)に着目して研究を行ってきました。その成果として、MATE ファミリーに属するヒト腎特異的トランスポータMATE2-K の同定に成功しました。また、シスプラチンの腎特異的毒性発現やメトホルミンによる乳酸アシドーシス誘発に、OCT の発現分布と基質認識特性、ならびにMATE の機能変化が重要な因子となることを明示してきました。これらトランスポータが寄与する副作用発現のメカニズム解明は、様々な病態の患者における薬剤選択に有用な情報になるとともに、創薬における副作用回避法の立案にも繋がると考えています。
2) 新規リボフラビントランスポータRFVT の同定と希少疾患BVVLS の病態解明
我々は哺乳類で初めてのリボフラビントランスポータRFVT1(旧名称RFT1)およびRFVT2(旧名称RFT3)の同定に成功してきました。また、海外との共同研究により本遺伝子欠損により、希少疾患であるBrown-Vialetto-Van Laere syndrome(BVVLS) を発症することを見い出しました。BVVLS は筋緊張低下や呼吸不全を引き起こす疾患であるが、そのメカニズムの詳細は不明でした。症例で見つかった遺伝子変異の機能解析や動物実験を実施することで、RFVT2 欠損では血中リボフラビン濃度が不変、RFVT3 欠損ではリボフラビン濃度低下を来たし、重症度の程度の異なるBVVLS の病態を呈することを明らかにしました。この研究成果に基づき、それぞれの遺伝子疾患がBVVLS2(OMIM# 614707)、BVVLS1(OMIM# 211530)として、ヒトの遺伝性疾患データベースOMIM に登録されました。現在、ノックアウトマウスを作製してBVVLS の病態解明と治療法の開発を進めています。

図1 医薬品の体内動態と薬効・毒性に関する基礎と臨床

図2 個別化療法を目指した抗体医薬の臨床薬理学的研究

 

主要論文
  • Masui S, Yonezawa A, Yokoyama K, Iwamoto N, Shimada T, Onishi A, Onizawa H, Fujii T, Murakami K, Murata K, Tanaka M, Nakagawa S, Hira D, Itohara K, Imai S, Nakagawa T, Hayakari M, Matsuda S, Morinobu A, Terada T, Matsubara K. N-terminus of Etanercept is Proteolytically Processed by Dipeptidyl Peptidase-4. Pharm Res 2022
  • Jin C, Yonezawa A. Recent advances in riboflavin transporter RFVT and its genetic disease. Pharmacol Ther 233:108023, 2022
  • Nakae K, Masui S, Yonezawa A, Hashimoto M, Watanabe R, Murata K, Murakami K, Tanaka M, Ito H, Yokoyama K, Iwamoto N, Shimada T, Nakamura M, Denda M, Itohara K, Nakagawa S, Ikemi Y, Imai S, Nakagawa T, Hayakari M, Matsubara K. Potential application of measuring serum infliximab levels in rheumatoid arthritis management: A retrospective study based on KURAMA cohort data. PLoS One16(10): e0258601, 2021