生体情報制御学分野

  • 教授  中山 和久
  • 准教授 申 惠媛
  • 講師  加藤 洋平

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研究概要

細胞内メンブレントラフィックと繊毛内タンパク質輸送に関する研究

約60 兆個(37 兆個という説もあります)の細胞からなる私たちヒトの体が正しく機能するためには、各細胞が正しく機能しなければなりません。細胞内には様々なオルガネラが存在しており(図2)、細胞膜に加えてオルガネラは脂質二重層からなる生体膜によって仕切られて、固有の機能を担っています。細胞が正しく機能するためには、各タンパク質が合成された場所から機能すべき正しいオルガネラや細胞膜へと輸送されなければなりません。私たちは膜で囲まれた構造体によって媒介される輸送システム(メンブレントラフィック)について研究をしています。 私たちは、一次繊毛というオルガネラ内でのタンパク質輸送機構の解明に取り組んでいます。一次繊毛には外部シグナルを受容する多くの受容体が局在していることから、「細胞のアンテナ」と呼ばれています。繊毛のタンパク質輸送が異常になると、細胞のアンテナとしての機能が果たせなくなり、「繊毛病」と総称される多様な遺伝性疾患が引き起こされます。 一次繊毛内には微小管からできた軸糸という構造があり、繊毛内タンパク質輸送複合体(IFT 複合体)がモータータンパク質のキネシンとダイニンを使って順行輸送と逆行輸送を行っています(図1)。IFT 複合体は20 種類以上のサブユニットから成る非常に複雑な分子機械です。私たちは、IFT 複合体の構築様式、各サブユニットの役割分担、積み荷タンパク質の認識機構、順行輸送と逆行輸送の制御機構などの問題を解決し、繊毛病の原因解明をめざしています。

生体膜の脂質動態制御による細胞機能調節に関する研究

生体膜の脂質二重層の間では、リン脂質組成の非対称性が存在しています。例えば、細胞膜の外葉にはPC やSM が多く、内葉にはPS、PE、PI が豊富に存在しています(図2)。非対称な脂質分布の動的恒常性は、リン脂質を細胞外側から細胞質側に移動させるフリッパーゼ(赤)、その反対に移動させるフロッパーゼ(青)、および両方向にかき混ぜるスクランブラーゼによって調節されています(図2)。二重層間のリン脂質組成の時空間的変化は、血液凝固、免疫反応、アポトーシス(細胞死の一種)を起こした細胞の除去、筋細胞の融合、細胞分裂、細胞運動、精子の受精能獲得、メンブレントラフィックなどに関わることが示唆されていますが、詳細な調節機構はわかっていません。私たちは、様々な細胞機能(メンブレントラフィック、細胞運動、細胞極性形成など)におけるフリッパーゼ(P4-ATPase)の役割の解明をめざしています。さらに、P4-ATPase の変異は遺伝性疾患などの原因になることから、脂質動態制御の観点からの疾患発症機構の解明をめざしています。

図1 IFT 複合体による繊毛内タンパク質輸送

図2 生体膜の非対称性の調節

 

主要論文
  • Ishida, Y., Tasaki, K., Katoh, Y. & Nakayama, K. (2022) Molecular basis underlying the ciliary defects caused by IFT52 variations found in skeletal ciliopathies. Mol. Biol. Cell, 33, 33,ar83.
  • Zhou, Z., Qiu, H., Castro-Araya, R.-F., Takei, R., Nakayama, K. & Katoh, Y. (2022) Impaired cooperation between IFT74/BBS22-IFT81 and IFT25-IFT27/BBS19 causes Bardet-Biedl syndrome. Hum. Mol. Genet., 31, 1681-1693.
  • Kobayashi, T., Ishida, Y., Hirano, T., Katoh, Y. & Nakayama, K. (2021) Cooperation of the IFT-A complex with the IFT-B complex is required for ciliary retrograde protein trafficking and GPCR import. Mol. Biol. Cell, 32, 45-56.
  • Katoh, Y., Chiba, S. & Nakayama, K. (2020) Practical method for super-resolution imaging of primary cilia and centrioles by expansion microscopy using an amplibody for fluorescence signal amplification. Mol. Biol. Cell, 31, 2195-2206.
  • Inoue, H., Takatsu, H., Hamamoto, A., Takayama, M., Nakabuchi, R., Muranaka, Y., Yagi, T., Nakayama, K. & Shin, H.-W. (2021) The interaction of ATP11C-b with ezrin contributes to its polarized localization. J. Cell Sci.134, jcs258523.
  • Okamoto, S., Naito, T., Shigetomi, R., Kosugi, Y., Nakayama, K., Takatsu, H. & Shin, H.-W. (2020) The N- or C-terminal cytoplasmic regions of P4-ATPases determine their cellular localization. Mol. Biol. Cell, 31, 2115-2124.